――それで後半登場する映画オリジナルキャラクターの【カエル】が生まれたんですね。
上田:【カエル】については、ふくだみゆき(共同監督)と原作者のきくちゆうき先生もいらっしゃる大所帯での打ち合わせの中で「後日談をもっと膨らませるにあたって、新しいキャラクターを登場させるのはどうだろうか」という話が出て、色々と話合っている中で生まれたキャラクターでした。その中で【カエル】の性格などザックリした方向性などを皆で話し合って決めて作業を進めていきました。
――共同監督のふくだみゆき監督とは、どのような役割分担をされたのですか。
上田:事前に役割分担を明確に話してはいないです。得意分野が全然違うので、自然と役割分担が出来ていった感じですね。構成的なことは僕が中心になって、脚本はふくだが一回描いて、それを僕が受け取って書き直して、また見てもらう。日常的なものは、ふくだの方が“いいだろうな”というのがあったので、まずはふくだに脚本を描いてもらいました。編集・撮影・音響みたいなものは、僕が中心になりました。絵のことはふくだが中心にフィードバックしたりしました。
――神木さんは、映画で描かれていることをどのように受け止めましたか。
神木:僕は「当たり前のことは、当たり前ではない」と言うことは簡単だし、言われても正直分かってないし、実感がないというか、「分かっている」と返すぐらいです。だけどそれって、本当に無くなってみないと「あ、そういえばそう言っていた」と本気で思えないことではないですか。「当たり前のことは、当たり前ではない」それは感謝しないといけないこととは思っていますけど、本気で「本当にそうだな」と思えるかどうかは分からない。だけど、目の前の事や、皆の事や物とか、自分が大事にしているものを少しでも大事にする。そう思える心を持ちたいなと思っています。
映画に登場する、大切な存在を失ったキャラクター達の時間が解けていくスピードもそれぞれ違うし、解けていないキャラクターもいる。でもそれは人それぞれだし、失ってしまったり、何かが変わってしまった後は意識も変わってしまうので「立ち止まっていいんだ」と思いました。時間も世の中もまわるのが早いじゃないですか。早いから向き合う時間がほとんど与えられないし、そっちの方が多いと思うんです。「取り敢えず、仕事をしないと。やることをやらないと」と目の前にある出来事をやっていく。向き合うことが出来なかった時間のまま過ぎて来たことも過去にあったので、僕はこの映画を観て、一瞬、時間が止まった気もしました。
向き合えなかったこととか、向き合わないといけなかったのに避けていたことに「向き合っていいんだよ」と言われているようなシーンも結構あり、それがとても大事なんだと凄く思いました。進むことも時間に乗ることも大事なことだけれども、時間を止める、止まることも大事だと感じていました。
――この映画は、喜びも悲しみも全部、優しく寄り添ってくれています。そして「何か行動を起こすには一人では出来ないこともある」ということも描かれています。神木さんは一人では出来なかったけれど、仲間や友達によって一歩を踏み出せた経験はありますか。
神木:ドラマ『コントが始まる』は、この上なくそうでした。「僕の人生で初めて」というくらいに初めて味わう感覚でした。お芝居ってもちろんチームなんですが、個人戦という部分もあるんです。でも『コントが始まる』は、横を向いたら皆が横並びでちゃんと居てくれる気分になったんです。そんな現場って珍しくて、チーム、出演者同士、皆が並んで立っている感覚でした。それぞれ各自が家で考えて作って来て現場で皆の前で発表する。それから考え直して作り直してみたいな感じでした(笑)。
本当に最初から横にちゃんと皆がついていてくれるチームってなかなか無いんです。スタッフさんもそうですし、本当に彼らだったから、彼女たちだったから、今までやってみたかったことを、【お笑いトリオ:マクベス】として【瞬太】としてかましてみようと安心して思えましたし、共演者も「そうだ、それでいい」と言ってくれていました。本当にいい現場でした。
――まさに【ネズミ】という共演者がそこに居たんですね。
神木:そうです(笑)ちゃんと横に居てくれる人たちです。
―― 一緒に仕事をする仲間に対して大切にしていることはありますか。
神木:やっぱり、“一緒に時間を楽しみたい”ですね。今回、トモ君(中村倫也)がアフレコ時にアドリブを入れるところでふざけていたら、「ちょっとやり過ぎです。もう少し抑えましょうか」と監督に怒られていましたね(笑)
上田:アドリブパートのところで(笑)
神木:アドリブなので「一回やってみる?」が大前提ですから、全員が承知しているんですけど(笑)
上田:やり過ぎたアドリブは使っていません(笑)。コンビニ前の「水族館ってベタじゃねえ?」やラストのあたりはアドリブです。
神木:アドリブ関連でのひと笑いって大事だと思うんです。黙々と真面目に録るのってちょっとキツイですよね。こういう一興があることで皆とコミュニケーションがとれるし“仲良くなれて楽しいな”と思えます。トモ君(中村倫也)は決める時は決めますからね(笑)
上田:そうですね。わざとやり過ぎをやって、雰囲気を作ってくれていました。
コロナ禍により世界中の人が当たり前の日常を奪われ、大切にしていたものや大切な人を失った方もいらっしゃいます。猛スピードで進んでいく社会のサイクルの中で、一体どうやって穏やかに優しい気持ちで暮らしていけるのか。神木くんの言う通り、“自分の悲しみにもちゃんと向き合ってあげなきゃ”と映画を観て気付かされたのでした。映画では、ワニくんから優しさを教えられ、ネズミくんから応援の仕方を教えられ、カエルくんから勇気の出し方を教えてもらう。当たり前のことが実は上手く出来ないのも人間で、“皆で補い合って生きていくんだよ”と話しかけられている気がした映画『100日間生きたワニ』。愛すべき一本です。
文 / 伊藤さとり
桜が満開の3月、みんなで約束したお花見の場に、ワニの姿はない。親友のネズミが心配してバイクで迎えに行く途中、満開の桜を撮影した写真を仲間たちに送るが、それを受け取ったワニのスマホは、画面が割れた状態で道に転がっていた。
100日前―――入院中のネズミを見舞い、大好きな一発ギャグで笑わせるワニ。毎年みかんを送ってくれる母親との電話。バイト先のセンパイとの淡い恋。仲間と行くラーメン屋。大好きなゲーム、バスケ、映画…ワニの毎日は平凡でありふれたものだった。
お花見から100日後――桜の木には緑が茂り、あの時舞い落ちていた花びらは雨に変わっていた。仲間たちはそれぞれワニとの思い出と向き合えず、お互いに連絡を取ることも減っていた。そんな中、みんなの暮らす街に新たな出会いが訪れる。引っ越ししてきたばかりで積極的なカエルに、ネズミたちは戸惑いを隠せず…
変わってしまった日常、続いていく毎日。これは、誰にでも起こりうる物語。
監督・脚本:上⽥慎⼀郎、ふくだみゆき
原作:きくちゆうき「100⽇後に死ぬワニ」
⾳楽:⻲⽥誠治
声の出演:神⽊隆之介、中村倫也、⽊村昴、新⽊優⼦ / ファーストサマーウイカ ほか
配給:東宝
©2021「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会
7⽉9⽇(金) 全国公開