Jun 02, 2021 interview

映画『HOKUSAI』で喜多川歌麿を演じた玉木宏が思う「役者には色気が必要」ということ

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――生き様って演じるだけではなく、演じる俳優の生き様も出てくると思うんです。ご自身が変わったと感じるタイミングはありますか。

「この時」というのは明確には覚えていませんが、どうしても若い時は気合ばっかりで、力が入り過ぎている時が正直あったと思います。それが、だんだんと芝居を続ける中で抜いていく方法がわかってきた気がします。力を入れ過ぎずに演じる。それがあることによってガッと行く時に振り幅が出来て、より強く見えると思うんです。何かの前で力を抜くって難しいことなんですけれど。

――今回「のだめカンタービレ」(TVドラマ:2006年)でご一緒だった永山瑛太さんもご出演されていますが。

一緒に共演するのを楽しみにしていたんです。撮影に入る前に連絡して一緒に食事に行こうと話していたのですが、撮影が全くかぶらなくて(笑)ちょっとくらい共演シーンがあるかなと思っていたんですが、全く無くて残念でしたね。

――若い頃に共演していた役者さん達と現場で再会をされますが、お互いに切磋琢磨している感じはありますか。

色々なものを経て、今こうしているのでやっぱり“面白いな”と思います。逆に今の2人の状態で「のだめカンタービレ」が出来るかと言われてもきっと出来ない。それぐらい積み重ねて来たものがあって今がある。これが10年後も20年後も継続していくと思うと面白いですよね。演技をする上で、何となく力を抜くことを覚えたとはいえ、それを術として覚えてしまったことで過去に出演した作品を今演じることは出来ないと思います。あの当時のがむしゃらな感じとか今は出来ないですし。過去作を見返すこともしないです(笑)

――人生観が変わった出会いや人はいますか。

大きく「この人」という方はいませんが、細かな刺激は常に受けています。今回の作品だと柳楽君もそうだし。細かな刺激がいっぱいある仕事だと思っています。本当にそういうものの積み重ねで、刺激をもらっては変わって、刺激をもらっては変わる、その繰り返しです。

――今、コロナ禍によって映画館が困難な状況ですが、配信ではドラマや映画が作られるようになり、配信によって作品が海外でも見られるようになっています。

ある意味でネットを通して海外の人と繋がりを持てることはチャンスだと思います。こんな状況ですが作品を作ること、作り続けることが出来る状態です。今作『HOKUSAI』のように日本にしか作れない作品を発信し続けていれば、世界の目に留まるかもしれない。今だからこそ、日本的な作品を発信する時期、チャンスかもしれないです。

――玉木さんのおじいさまは長生きなんですよね。

そうなんです、長生き家系なのか?ついこの間100歳になりました。普通に元気なんです。自分もその血を受け継いでいるかもしれないです(笑)

――北斎にしても江戸時代にしては90歳と長生きですよね。今後の人生の中で、やってみたいことや「こうやって生きていきたい」などがあれば教えて下さい。

メディアというか、作品の出口という意味ではスタイルがどんどんと変わっていくのかもしれませんが、臨機応変に時代に合わせて変わっていく。変わっていくことが必要な時代になっていくと思うのですが、いつどんな時でも“生っぽくありたい”と思っています。

CGも凄くなっていて、今度発売されるゲームで容姿も含めて僕で、その声の吹き替えもしたんですが、下手をしたらそれで映画が作れてしまうかもしれない。そうなってしまったら凄いんですけど、映画やドラマの意味が…。熱量とか血の通ったものを見せることは必要だと思うので、どんな時でも生っぽいものをお届け出来る状態でありたいと思っています。それは年相応のこれまで積み上げて来たものをその時々で出せることだと思っているので、そう思いながら楽しくやっていければと思います。

――今後演じてみたい役や探求したい役を教えて下さい。

もの凄く悪い奴か、もの凄く変な奴。これは前にも言ったかもしれませんが僕が演じているとわからない役。顔を隠してもいいし、着ぐるみを着ていてもいい、蓋を開けてみたら僕が演じていたみたいな(笑)。どうしても演じる役の路線が固まってしまいがちなので、そこから全く外れた違うものを演じてみたいんです。少しずつ役の幅は広がっているとは思っていますが“もっと振れるはずだろう”と常に正反対なものを考えています。顔が判らない役で、エンドロールを観て「エっ?!」と驚いてもらいたいです(笑)顔が映らないなんて面白いと思うんです。アイデア次第で面白いことを色々と想像出来るんですけど…。いつか演じる機会があるかもしれません。

絵師・喜多川歌麿を演じるにあたり、長い筆で絵を描く練習をしてみたという玉木宏さん。劇中でも歌麿の部屋は特にビビットで独創性ある空間として記憶に焼き付きます。柳楽優弥さん演じる北斎と鋭い視線を交わす名シーンでの首の角度や視線、声のトーンが部屋全体を妖艶なものに変えた瞬間。それこそはまり役だからこそ醸し出す人間の“色気=魅力”にほかならない気がします。

文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報
『HOKUSAI』

腕はいいが、食うことすらままならない生活を送っていた北斎に、ある日、人気浮世絵版元(プロデューサー)蔦屋重三郎が目を付ける。しかし絵を描くことの本質を捉えられていない北斎はなかなか重三郎から認められない。さらには歌麿や写楽などライバル達にも完璧に打ちのめされ、先を越されてしまう。”俺はなぜ絵を描いているんだ?何を描きたいんだ?”もがき苦しみ、生死の境まで行き着き、大自然の中で気づいた本当の自分らしさ。北斎は重三郎の後押しによって、遂に唯一無二の独創性を手にするのであった。
画狂人生の挫折と栄光。幼き日から90歳で命燃え尽きるまで、絵を描き続けた彼を突き動かしていたものとは?信念を貫き通したある絵師の人生が、170年の時を経て、今初めて描かれる。

監督:橋本一

企画・脚本:河原れん

出演:柳楽優弥 / 田中泯 / 阿部寛 / 永山瑛太 / 玉木宏 / 青木崇高 / 瀧本美織 / 津田寛治

配給:S・D・P

©2020 HOKUSAI MOVIE

公開中

公式ト:http://hokusai2020.com/

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net