『ヒメアノ〜ル』から、『犬猿』といったオリジナル作品も多く生み出している𠮷田恵輔監督が30年以上続けてきたボクシングを題材に脚本を執筆、自ら殺陣指導も行い完成させた映画『BLUE/ブルー』が4/9に公開される。松山ケンイチ演じる弱いけれど心優しいボクサー瓜田、東出昌大演じる瓜田の後輩で天才的ボクサー小川、柄本時生演じるモテたくてボクシングを始める楢崎。今回は、瓜田と小川にエールを贈るヒロインを好演した木村文乃さんにお話を伺います。
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――登場するキャラクターそれぞれの人生、バックボーンが見えてくる映画ですが、本心は隠しちゃうけど面倒見の良い瓜田、凄く好きなことに一生懸命である意味素直過ぎる小川、負けず嫌いで頑張り屋の楢崎。木村文乃さんのタイプの人はどなたですか?
断然、瓜ちゃんです(笑)。この世界の延長でお話をしたら、おじいちゃんになっても瓜ちゃんは凄く楽しそうにボクシングの話をしてくれそうなんです。それも私に分かりやすく、知らない人間に対しても優しく話してくれそうなイメージがあります。
小川は才能があるゆえにストイックだから、おじいちゃんになっても現役の時の様にボクシングの話をしそうなので、一生ついていけないその狂気の部分にさみしさを感じてしまうと思うんです。
私は穏やかな老後を過ごしたいと思うから瓜ちゃんがいいです(笑)
――木村さん自身は瓜田のように、思ったことを相手に言わないということはありますか?
それは大人になってより強く思います。何でも思ったことを言えばいいということもないし、あえて説明せずに相手に委ねるということも大事なんだということをこの歳になってやっと気づけるようになって来ました。
――セリフや行動の一つ一つに、心の裏側が一瞬見えるシーンが多い映画でしたが、木村文乃さんご自身の心に響いたシーンを教えて下さい。
シーンではないのですが、瓜田が楢崎君にボクシングを教える、アドバイスをするシーンは本当にそうだったんです。カメラが回っていないところでも柄本さんが一人でシャドウボクシング、スパークリングの練習をしていると、「ここはもっとこうした方がいいんじゃない」と松山さんがアドバイスをされていたんです。かたや監督達は「東出君のパンチはこんなもんじゃない。殺人級なんだよ」とニヤニヤしながら話していたりして、本当にボクシングが好きな人たちが集まって作った映画なんです。だから、その現場の雰囲気がそのまま作品に出ているんですよね。映画の中の何気ないシーンを実際に撮影以外でも見ていたので実感しましたが、「映画だよね、映画だから」という綺麗ごとではなくって、実際に皆がそうやって積み重ねたうえでリングに立っているんです。やっぱり千佳はその輪の中に入れないから、傍から見ていて同じようにそう思っていました。
――女性の生理周期を語るシーンもありましたが、男性監督がそこを描いていることに少し驚きました。そのお陰でカップルの関係性の深さを感じ、すごく微笑ましかったんです。
そういう事って日本人の奥ゆかしさというか、あまり言ってはいけない雰囲気というか、耐えるもの、隠すものというイメージがありますよね。でも言った方がいいし、成長していくうえで皆が知ることですし“お互いのバイオリズムを知って、楽しく分かり合えた方がいいのに”という思いが、女兄弟の中で育った𠮷田監督ならではの感覚なのだと思います。「言ってくれた方がいいよ」という感じですよね(笑)
――映画の中では試合に負けるシーンがありますが、木村文乃さんご自身はスランプになった事がありますか?またどうやって立て直していますか?
基本、スランプには多分ならないと思うんです。スランプってそこの表現に対して極めようとする人がなってしまう高尚なことだと思うんです。私は頂いた役で“どうやってその場に居ようか”といつも考えてしまうので、【技を磨くタイプ】ではないと20代後半の時に思ったんです。だから、スランプからの立て直し方と聞かれてもちょっとわからないです。ただ私は後ろ向きがちというか、振り返りがちなんです。その後悔に捕まると中々這い上がって来ることが出来なくて、ずっと自分を責め続けてしまうんです。あまり良くない部分に入ってしまうので“なるだけ前だけ向いていよう”と思うようにしています。
――瓜田の言葉で小川がピンチに救われたように、木村文乃さんが救われた言葉があれば教えて下さい。
いっぱいありますが、マネージャーさんの言葉ですね。悔しいんですよ、「そんなのわかっているし」と子供みたいに言いたくなる時もあるんです。でも、やっぱり十年以上の付き合いになって、どんな職業よりも生身の自分を見せるし、それを受け止めてもらう職業でもあるので、人間同士の付き合いとしては密度が濃いと思います。だからこそ、良くも悪くも逃げられない言葉、グサッと刺さる一言をもらうのはマネージャーさんです。
――今の時点で木村文乃さんが思う役者とは何ですか。
これまでは普通に「仕事です」と言えていたのですが、最近、ちょっとその境界線がわからなくなってきています。もうあと10年ぐらいしたら答えが見つかりそうな気がしています。いい意味で「仕事です」と言い切れないようなゾーンに入って来ているのかな。役と私生活がいい感じにマーブルになっている感じがするんです。それがやっと混ざり始めたくらいの段階なので、どうなるのかわからなくて(笑)
でもちょっとずつだけど、多分役者として良い方向に進めているのではないかと思えるようになってきました。ちゃんと、イイ色になっていけたらと思っています。
ボクシング映画といえどもボクサーはひとりの人間であり、彼らの生き様が映し出されることによってボクシングを知らずとも人生という共通のテーマに心揺さぶられる『BULE/ブルー』。それぞれの夢にかける男たちの姿の横には女性が居て、カップルの日常や男女の思いが描き出される。木村文乃さん演じる千佳の存在により、時に恋愛映画の色合いも見せるのが人の心の裏側も描き出す𠮷田恵輔監督ならでは。そして木村文乃さんの人柄を見抜いたようなキャスティングにより千佳の思いがスクリーンに溢れ出しているのです。
文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦
主人公の瓜田は、誰よりも努力し情熱を注ぐが、負け続き。一方、後輩の小川は生まれもった才能とセンスで、チャンピオンの座を掴む直前。彼らの挑戦を見守るのは、瓜田の初恋の人で、今は小川の婚約者の千佳。すべてを掴んだ小川を瓜田は羨むが、小川に脳の障害が顕れ、彼らの関係が変わり始める。平凡と非凡、憧れと嫉妬、友情と恋。相反する想いが混じり合う3人の関係が切なさを誘い、理想と現実に悩みながら前に進む姿が心を揺さぶる。監督の𠮷田恵輔が、中学生時代から30年以上続けてきたボクシングを題材に、キャリアを更新する最高傑作を生み出した。長い構想期間を経て、自ら脚本を書き上げた本作では、挑戦者を象徴する”ブルーコーナー”で戦い続ける者たちの生き様を描きだす。
監督・脚本・殺陣指導:𠮷田恵輔
出演:松山ケンイチ / 木村文乃 / 柄本時生 / 東出昌大
配給:ファントム・フィルム
©2020『BLUE/ブルー』製作委員会
4月9日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー