Mar 27, 2021 interview

俳優・クリエイターとして異能の3人 竹中直人 / 山田孝之/ 齊藤工が共同監督を務める映画『ゾッキ』を語る

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――皆さんがこだわった部分を教えて下さい。

山田:基本的にストーリー自体はロードムービーです。つまりコンビニなどのお店に入った時に何かが起こる、最後にギュッと狭い所にオッサン達が集まる話なので、そこまでは広々としていたかった。だからなるべく引きの画で見せたかったんです。最初の遠くから(松田)龍平くんが来るのはロケハンの時にパッと思いついたんです。

引きで撮影していく中で、また引きのヨコイチかなと思った人が急に曲がって来たら“アレ?”と思いますよね。あそこはナレーションが入ったりもするので、曲がって来たら“え?まさかこれがここに来るまで待たないよね。そこまで耐えられないよ”と思いますよね。でもそこでここまでの3つくらいあったナレーションのことが自分の中でグルグルと回るかなと。どういう意味だったのか、自分だったらどうだろうかというのがあってからビデオボーイズに出会って藤村(松田龍平)の旅が始まる、そんな風にしたらいいなと思いました。あそこはチャリを借りて自分で「どこから走ったら何秒か」を何回かやりました。

――引きの画がとても魅力的でした。そういう意図があったのですね。

齊藤:自分の組ではないのですが、山田監督のパートの海のオシッコのシーンが好きで(笑)多分あの誕生会に参加した藤村は勧められる飲み物をたくさん飲んでいたということにも繋がってきたりして、あの長いオシッコのシーンが僕は大好きなんです。   

――私もあの誕生会のシーンでのピエール瀧さんの登場の仕方とか凄く好きです。

齊藤:めちゃくちゃいいですよね。

竹中:ご飯の食べ方もまたいいんだよね。

齊藤:瀧さんの一連のシーンは神がかってます。

山田:キャスティングで盤石にしたちょっとズルい人みたい(笑)ピエール瀧さん含め、キャスティングに関してはかなり早い段階で皆さんにお話してお願いしました。

――齊藤監督、雨が効果的になったシーンがありましたが、雨降らしだったのですか?

齊藤:雨降らしです。とても寒い時期の撮影でずっと雨に打たれるというかなり大変なシーンになってしまいましたが、肝だと思ったので急に韓国ノワールじゃないですけど、画も含めて重めのものにしたいという気持ちがあって、何度も何度もトライして九条さんが動かなくなるぐらい、凍っていく様を撮影しました。

山田:九条さん「もう無理!」と言っていましたよね(笑)

齊藤:言っていましたね(笑)その現場でも山田プロデューサーはサポートして下さいました。あと近所の六花亭がお風呂を提供して下さったんです。その担保があったから粘れました。「死にたい」という表現でも軽やかに付け加える味付け(みかんの皮で文字を表現するなど)は現場でも生まれていったのですが、ポイントとなる雨のシーンは重厚さみたいなものがコントラストとして効いて来るのではないかと、対比というか落差を意識しました。

――竹中監督のこだわりを教えて下さい。

竹中:今、工が言っていた孝之の龍平のオシッコが止まらないシーンですが、自分が34歳の時に初めて監督した『無能の人』(公開:1991年)でも主人公のオシッコが止まらないシーンがあるんです。それを思い出しました。工組のザンザン降りの雨のシーンも『無能の人』で2月の寒い時期に出演して頂いた、神代辰巳監督が吹き替え無しで雨にびっしょり濡れて下さった。そんな風に『ゾッキ』を観ながら、初監督した当時の映像が頭に浮かびました。

僕が初めて《ゾッキ》を読んだ時《父》のエピソードの中に、割れたガラスが地面にザクザクって刺さるシーン、そして白い幽霊が「夏って暑くて寝苦しいけど…」ってセリフに感動して《ゾッキ》映画化の企画を思いついたんです。

山田:昨日、取材を受けていた(松田)龍平くんが印象に残っているシーンを聞かれて「ガラスがグサグサ刺さるシーンが印象的だった」と話していました。「それ言ったら竹中さんめちゃくちゃ喜ぶ。そのシーンを撮りたくて映画化したんだ」と伝えました。

竹中:そうなんだ!龍平には去年の暮れにちょっと会ったんだけど、そんな話にならなかったな。

――ちょっと「真夏の夜の夢」のような雰囲気がありますよね。怖いんだけど愛おしい。

竹中:幽霊のような女と子供の関係を撮りたかったんです。

それぞれの監督の“フェチ”が集結するとこんなに可愛らしい作品が生まれるのか!?キャスティングはもちろん、画へのこだわり、音楽へのこだわりが、さりげなくもしっかりと焼き付けられた短編は、緩やかに繋がっていき、やがて高揚感に近い優しい気持ちに包まれるという摩訶不思議な後味に酔いしれる。ロケ地である愛知県蒲郡市の草木の香り、潮の香りがその作用を発動させた気もしたり。『ゾッキ』、見れば見るほど愛おしくなる“長く付き合える恋人”のような映画です。

文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報
ゾッキ』

今日も地球は[秘密と嘘]で回っている。唯一無二の天才漫画家 大橋裕之の幻の初期作品集「ゾッキA」「ゾッキB」に収録された珠玉作品たちを、日本を代表する俳優であり、クリエイターとしても異能を示す、竹中直人、山田孝之、齊藤工の3人が共同監督を務め、一本の長編映画としてまとめ上げた。この破格のプロジェクトに”寄せ集められた”のは、日本を代表する眼福豪華な出演者たち。ありふれた日常や等身大の人生で巻き起こる、時にシュールで、時にリリカルな、不思議な笑いと多幸感。まったくカテゴライズ不能な奇跡の実写映画。

監督:竹中直人 山田孝之 齊藤 工

原作:大橋裕之「ゾッキA」「ゾッキB」(カンゼン刊)
出演:吉岡里帆 鈴木福 満島真之介 柳ゆり菜 南沙良 安藤政信 ピエール瀧
配給:イオンエンターテイメント
©2020「ゾッキ」製作委員会

4月2日(金)全国公開、3月26日(金)愛知県先行公開※一部劇場除3月20日(土)蒲郡市先行公開

イト:https://zokki.jp/

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。 映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。 自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。 映画コメンテーターとしてCX「めざまし8」、TBSテレビ「ひるおび」での レギュラー映画解説をはじめ、TVやラジオ、WEB番組で映画紹介枠に解説 で呼ばれることも多々。 雑誌やWEBで映画評論、パンフレット寄稿、映画賞審査員、 女性監督にスポットを当てる映画賞の立ち上げもおこなっている。 著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。 2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」 (KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net