――これまでご出演された作品の中で自分が覚醒した、世界観が変わったと感じた作品を教えて下さい。
初主演作である『おじいちゃん、死んじゃったって。』(公開:2017年)に出演した時は変りました。それまでは映画やドラマに出演してもあまりコミュニケーションが取れなかったんです。雑談みたいなものも出来なくて、それでも明るい役柄が多かったので本番だけデバッて(笑)台詞以外になると殻に閉じこもるみたいな感じだったんです。“このままじゃ駄目だ”とその時から感じていて、初主演になった時に皆とコミュニケーションをとって、頼りない主演かもしれないけど、誰よりも元気でいようというのを目標にしていました。その現場では光石研さんや岩松了さん、水野美紀さんとご一緒して、何よりも森ガキ侑大監督が明るくて、優しくて、「現場では絶対に怒鳴るな」という優しい組を作る監督だったので本当に色々な人に支えられてようやく真ん中に立てた元気な人みたいな感じでした(笑)
監督や共演者の方達と話すことで、こんなにも自分がこの場に居やすいということ、この組に居やすいということが芝居のしやすさに繋がるということを初めて知りましたし、台詞以外のコミュニケーションの大切さを知った現場でした。今までのがんじがらめで頭でっかちになっていた自分を変えてくれた作品です。この作品以降、世界が結構変わりました。
――その後『愛がなんだ』にご出演されて、ご自身が演じられた山田テルコに女子高生から女子大学生、社会人まで多くの女性が共感するという体験をされましたが、どう思われましたか。
正直、あんなに嬉しいことになるとは思っていなかったんです。作っている時は“伝わればいいな”と思っていましたが“伝わりにくいかも、でもこれがテルコだから”という気持ちで演じていました。説明しづらいので決して解りやすい映画ではないと思うんです。「執着しているんです」って理解出来ない人にとっては「何でテルコのような行動をとるのか意味がわからない」になるし、そういう意見を言う人もいたので。でも意外と年上の男性から「俺、テルコだった」という声も聞きました。私の役に共感できない人は若葉竜也さんが演じられたナカハラの役に共感する。十人十色の感想が回って来たんです。
『おじいちゃん、死んじゃったって。』で世界が変わって、『愛がなんだ』で思った以上に人に伝わるという体験をしました。私は凄く個人的な想いでテルコを演じていたんです。成田君演じるマモルちゃんのことだけを考えて、周りからどう見えるかは今泉力哉監督に調整してもらう、“テルコは全てを捨てるぐらいこの人(マモル)のことが好きなんだからそれでいこう”と思って役を作っていきました(笑)
こんなにも一人の人に対する個人的な想いが男女問わず色々な世代の人に伝わることにビックリしました。映画って凄い、何か凄い奇跡が起きているとその時に感じました。それにこの作品は私の知らない友人の一面も見せてくれたんです。テルコは人に言わない自分の気持ちなので「〇〇ちゃんって意外とテルコなんだ」と驚くことも。絶対に言わないけど、友人関係でも今まで知らなかったことを知るきっかけになりました。本当に自分を変えた作品第二波が『愛がなんだ』です。
――女優という仕事を今の時点でどんな仕事だと思っていますか。
難しい質問ですね。私はアルバイトでいろんな職業を経験しましたが、すぐに仕事が出来ちゃうので、時給もすぐに上がるんです。本当にバイトが向いていると思った時もありました。実際に「ここだったら社員にします」と言われたこともあります。けれども週6でバイトに行っても週1の俳優を選びたい。俳優しかない、ミュージシャンしかない人も居るじゃないですか、私はそれではないと思うけど、芝居が好きで、芝居にしがみついていたいです。
――役をもらった時、役について考えている時、役を演じている時に嬉しいのはいつですか。
映画の準備をしている時もワクワクしているし、演じている時も楽しいです。でも準備の時「どうしよう、間に合うかな、これって合っているのかな」と試行錯誤している時間は恐いかな。現場に入れば監督も共演者もいるので皆と一緒に作っているんだと感じて“大丈夫”と思えるんです。インする前の一人で考えている時間が一番きついです。仲間が居ると解ってはいるんですが、それまでに自分がそこのラインまで到達していないと“駄目だ、この作品が駄目になっちゃう”と煮詰まってしまう時があって、それが一番辛いです。作っている時は“このワンカット、ワンカットが私の大好きな映画になるんだ”と思って本当に楽しいです。芝居も好きですが、一番好きなのは映画です。時間があれば映画を観たくなる、「映画が観たい、映画が観たい」とまるで活字中毒みたいに(笑)役者は自分が一番好きな仕事です。
会うたびに目を輝かせ、映画の話をしてくれる岸井ゆきのさん。『アベンジャーズ』の中でもお気に入りキャラは“ヴィジョン”と言う彼女は、『愛がなんだ』の振り回し系男子マモルちゃんタイプを好きにならないだろうなぁと思いながら、人を見る目があるのです。それは役を見つめるのも同じで、じっくり役の性格を掴んでいきながら『ホムンクルス』では、自分を理解していない女性をそこに出現させたのだから。
文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦
一流ホテルとホームレスが溢れる公園の狭間で車上生活を送る名越進。過去の記憶も感情も失い、社会から孤立していた。そこに突然、奇抜なファッションに身を包んだ研修医・伊藤学が目の前に現れる。 “生きる理由”を与えるという伊藤の言葉に動かされ第六感が芽生えると言われる手術<トレパネーション>を受けることに。術後、名越が右目を手で覆い、左目だけで見たのは、人間が異様な姿に変貌した世界だった。原作は、人間や社会の深部を鋭く切り取り描き続けてきた漫画家・山本英夫による累計発行部数400万部超えの国民的カルト漫画。独創的な内容から“映像化不可能”とも言われていた原作を、連載開始から10年以上の時を経て、国内外で活躍する映画監督・清水崇が、大胆で独特なタッチと繊細な心理描写で描き出す。
監督:清水崇
原作:山本英夫「ホムンクルス」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
出演:綾野剛 成田凌 岸井ゆきの 石井杏奈・内野聖陽
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©2021 山本英夫・小学館 / エイベックス・ピクチャーズ
2021年4月2日全国公開