――仙人が子供というのは、脚本の時点で考えられていたのですか。
脚本の段階では考えてなかったですけど、遠くの方からすーっと来る印象があって。オーディションをしていたら「子供の方が面白いんじゃないか」という話になって、原作には長老風となっていたのですが、「子供でもいいよね」ってことになりました(笑)
――先日、ある新人監督の方が話していたのですが、沖田監督の作品では、『キツツキと雨』(公開:2012年)の小栗旬さんや、『モリのいる場所』(公開:2018年)の山崎努さんなど、役者さんがテレビでは見ないような姿に変化する、意外なキャラクターを演じられているのが魅力的だと言っていました。
「この役者さんにこの役を演じさせたら面白い」という悪い企みはあると思います。結局、そういうことで面白がっているところもありますね(笑)
田中さんが冒頭で踊ったりした時に、“あれ?なにこれ?田中さん、最近こんな役は演じていないよね”って思ってくれたら。そういうのって役者さんはやってくれるというか、でもまさか田中さんがここまで演じてくれるとは思っていなかったですが。凄いですよね、マンモスと歩くところも“よくやってくれたな”と思います。
――そうですね、田中裕子さんが出演されている『夜叉』(公開:1985年)が大好きなんですが、今までの作品でもシリアスなものが多いですよね。
『夜叉』もいいですよね。田中さんは情念を燃やすようなタイプを演じられることが多いですよね。僕は田中さんのちょっとしたコメディなところが好きで、久世光彦さんが演出されるドラマでも演じられていましたが“いいな”って思います。
田中さんが歌うシーンは流石に熟考されていて、最初に田中さんの歌声をiPhoneで録音して、それを音楽の鈴木正人さんが本当に曲にして下さったんです。田中さん自身は歌のシーンとか「大丈夫かしら」と気にしていらっしゃいましたが、基本的には面白がって下さっていたと思います。
――沖田監督が映画を作るうえでのポリシーを教えて下さい。
人間臭いもの、笑いは大事にしたいと思っています。“人間だな~”ってそれが可笑しいし笑ってしまう、そんな映画をずっとやっていきたいです。上手い事、言えないな(笑)
『キツツキと雨』の舞台挨拶で、小栗旬さんが沖田修一監督の作品が好きで、出られて光栄だったこと、撮影中、沖田監督の笑い声が入ってしまうこともあったくらい監督が楽しそうだったと語っていたのを今も覚えています。『モリのいる場所』の舞台挨拶では、亡くなった樹木希林さんが「もっと監督らしく、ピシッと決めないとね」と言って、沖田監督の服装を気にしてスタイリストさんたちからネクタイを貸してもらったりと、仕事を共にした俳優たちに愛される沖田修一監督。作品にはその人柄がにじみ出ると言われていますが、『おらおらでひとりいぐも』のすべての登場人物、全員が可愛らしく面白いのも、人を愛し、愛される監督自身の人間力に違いないのです。人間ってやっぱり滑稽で愛おしい。
文 ・写真 / 伊藤さとり
昭和、平成、令和をかけぬけてきた75歳、ひとり暮らしの桃子さん。ジャズセッションのように湧き上がる“寂しさ”たちとともに、賑やかな孤独を生きる。1964年、日本中に響き渡るファンファーレに押し出されるように故郷を飛び出し、上京した桃子さん。あれから55年。結婚し子供を育て、夫と2人の平穏な日常になると思っていた矢先…突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る毎日。しかし、ある時、桃子さんの“心の声=寂しさたち”が、音楽に乗せて内から外へと沸き上がってきた!孤独の先で新しい世界を見つけた桃子さんの、ささやかで壮大な1年の物語。
監督・脚本:沖田修一
原作:若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(河出文庫)
出演:田中裕子 、蒼井優、東出昌大/濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎
配給:アスミックエース
©2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
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