Feb 03, 2026 interview

寛一郎インタビュー 愛と喪失、その先の希望へ『たしかにあった幻』

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――映画を観ながら“確かに【迅】のような人は居る”と思いながらも、私はどちらかというと【コリー】タイプなので、部屋での誕生日のシーンで感情が露わになっていく様子は辛くって。あのシーンはどうやって撮影していったのでしょうか。

あそこは確かに辛いですよね。テイクを重ねたのもありましたけど、基本「よーい、スタート」がないんです。だからあのシーンの撮影でも、気づいたらカメラが回っている感じでした。河瀨監督の理論で言うと「カメラが回っていない時でも役にならないと駄目だから」ということなんです。だから役は積み重ねなんです。いつカメラが回されてもいいように、僕と彼女 (【コリー】役ヴィッキー・クリープス) は、常に準備をしている感じでした。

――河瀨組常連の永瀬 (正敏) さんからもお聞きしたことがあります。つまり、撮影に入る前からずっと役に入り込まないといけないということですよね。

そうです。メイクが終わった時点で役にならないと駄目らしく‥‥、スタッフさん達もメイク後は、俳優の周りから誰も居なくなる感じです。

――つまり撮影期間中は、役者はずっと演じる役で居るという感じですか。

そういうことだと思います。ただ僕はそういうタイプではなかったので、結構難しくて。僕は自分の中にあることしか演じることが出来ないんですよね。「役をゼロから作って、演じています」ということもあまり出来ないタイプで。自分の中にある感情から役を演じているので、僕の解釈では僕がそこに普通に居ても【迅】ではあるんです。だから河瀨監督がやって欲しい俳優の在り方と、僕の現場での居方が完全に一致はしませんでした。でも後半からコツを掴んできたというか、“こうすればいいんだ”と思いながら演じていました。

――河瀨組を経験したことで、新しく生まれた演技のアプローチはありますか。

河瀨監督自身がとてもクレバーな人なので、現場で悩んで「待つ」という言葉がないんです。河瀨監督は掴み取りに行く、全部前のめりに掴み取りに行く人なので、その姿勢を含め、自分が欲しい部分だと思いました。役作りに対してもそうです。撮影時、僕の方がヴィッキーより先に屋久島に居たんです。何故なら【迅】は屋久島に住んでいたので、それは当たり前のことですし、【コリー】役のヴィッキーと僕が同じタイミングで屋久島を訪れるのはあり得ないことだからです。それに僕はヴィッキーと森の中で出会うまで、一度も会わなかったんです。だって映画の中では、【迅】と【コリー】は森の中で出会うから。だから撮影の準備でも同じ空間に居るけど、お互いを見せないように周囲も心がける。その中で (撮影前の) お祓いもするみたいな感じでした。

――え!? 撮影が始まる前の映画撮影の安全を祈願するお祓いでもですか!?

はい、お祓いの時もヴィッキーは斜め横に居るんですけど、僕が目を合わせようとすると遮られる感じでした。

―― (クランク) イン前の顔合わせにもなる () 本読みもしていないということですか。

まったくしてないです。ぶっつけ本番です。最初に森で出会うシーンが「初めまして」でした。そこから半分ドキュメンタリーのような撮り方になりました。撮影が進んである程度、物語の2人が仲良くなって、それからちょっと時間が経過して、屋久島で2人でデートをするみたいな感じのシーンを撮影することになったのですが、その間、移動時間があったんです。その時、河瀨監督から「何でヴィッキーに話しかけに行かないの? あなたは【迅】でしょ」と言われて、“確かにな”と思いました (笑)。

――すごいですね。脚本にも英語が書かれていたんですよね。

はい。英語でしたね、途中から半分、フランス語になりました。