Nov 13, 2025 interview

館ひろし インタビュー 藤井道人×木村大作と向き合う現場は“挑戦の連続”だった 『港のひかり』

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『新聞記者』 (2019) で最優秀作品賞、『正体』(2024) では最優秀監督賞を日本アカデミー賞で受賞した藤井道人監督。そんな藤井道人監督と、舘ひろしが『ヤクザと家族 The Family(2019) ぶりに再びタッグを組み、更に日本アカデミー賞最優秀撮影賞を5回も受賞する木村大作が撮影となる『港のひかり』。孤独な元ヤクザの漁師が目の見えない少年との出会いから、運命が劇的に変わって行く人間ドラマです。今回は、主演の舘ひろしさんに撮影現場での様子やご自身の活動について、そして俳優という仕事での変化を伺います。

――『港のひかり』の制作に至る過程を伺っていいですか。

以前、映画『ヤクザと家族 The Family』という作品で藤井道人監督とご一緒して、これまで僕がご一緒したことがない新しいタイプの監督だったんですね。“藤井監督ともう一度、どうしてもやりたい”と思って、その時のプロデューサー、河村光庸さん (2022年6月11日死去) にお願いしたんです。そうしたら、医者や先生役とか、いくつか候補が出てきたものの、僕は非日常を映画として描きたくて、“やっぱりヤクザがいいんじゃ?”と伝えました。それで元ヤクザという男の物語を描いて頂きました。

――歳の離れた尾上眞秀さんや眞栄田郷敦さんとの共演はいかがでしたか。

眞秀くんはやっぱり歌舞伎役者の血筋というか、ほっといてもお芝居が出来てしまう。目の見えない少年の役なのですが、素晴らしかったです。僕がもし、今の年齢で「目の見えない老人の役を演じてください」と言われてもあんなに上手くできないと思っています。上手いんですよ。郷敦くんは本当にイイですね。僕の推し!の俳優さんです。最近、“推し”って言葉を知ったばっかりなんです (笑) 。とにかく彼の目がイイんですよ。彼は撮影中に芝居のことをあまり喋らないのもイイ!僕はお芝居の話が苦手なんで (笑) 。それとスクリーンを支える力が彼にはあると思ったんです。

――そんな藤井道人監督と巨匠・キャメラマンの木村大作さんとの撮影で驚いたことはありますか。

驚きの連続でしたよ。やっぱり、木村大作さんのカメラが何といっても驚きでした。何台ものカメラが同じ方向を向いていて、“あんな風にして撮影出来るのか ? ”と。だって4台、5台のカメラが同じ方向から撮っているんですよ。それに今回は、フィルムで撮ったんですけど、今はモニターで撮っている映像を見られるようになっているのに、大作さんは撮っている画を絶対に監督にも見せないんですよ。僕が俳優になったばかりの頃の往年のキャメラマンスタイルなんです。やっぱり雨のシーンと最後の雪のシーンは、木村大作ワールドですよね。

――となると藤井監督はきっと大変でしたよね。

藤井監督は凄く不自由だったような気がしています。モニターを見られないから、画を確認できない。それにすべての画を木村大作さんが決めるので、藤井監督は自分で画を決められない。藤井監督は演出をするしかないんです。ずっとカメラのそばでこちらを見ているのですが、僕は敢えてその不自由さが今回、監督にとって凄く良かったのではないかと思っています。

――確かにこれまでの藤井監督作品とは、画が違うテイストというか。

たぶん、今までの藤井監督だったら“カメラはこっちから入って”と考えて撮影しているんですよ。けれど今回は彼の頭の中にあるものを、大作さんにすべて否定されているみたいなもんですから。藤井監督の思っている画よりも、それに達していない画もきっとあると思うんですけれど、藤井監督の想像を超える画もある。最終的に編集は藤井監督がしているわけですから、そこはある意味、藤井監督にとっても初めての挑戦だったし、別のものが生まれた気がしますね。