ーー私は『旅と日々』が凄く好きなんですが、その理由は、昔の映画的な間が時間の中に沢山あるからなんです。
堤:そうなんです!この映画には、小津監督作品と同じ雰囲気 (情景) のカットがあるんです。映画の冒頭でシムちゃんが脚本を書く前に街が映るんですけれど、あれだけでどんな生活レベルなのかが理解出来るんです。大都会の凄く良い感じの出版社があるような高層ビルが立ち並ぶ所ではなく、あの光景だけで“その環境で書いているんだ”というのがすぐに理解出来るんです。情景のシーンでは、向こうの鉄橋で電車が走っている手前の川で、丁度、電車が通る時に川にサーッて風が吹いたり、“こんなタイミングってあるの?”っていうタイミングで物事が起きている。確かに一日中カメラを回していたら撮れると思うけれど、その瞬間に起こるっていうのは奇跡に近いと思うんです。何か事が起きているわけではない情景のカットが凄く意味を持っていて、観ている側が知らないうちに理解するというか。それが凄い映画なんです。


ーー俳優業で今、大切にしていることを教えてください。
堤:若い頃はもの凄く作品を選んでいたんです。食えなくても、偉そうに、本を読む力もないのにね。それは何故かというと、当時はトレンディドラマと言われるような時代で女優さんが着た洋服が売れるとか、そういう時代だったんです。そういうことにまったく興味がなかったので、ドラマから「この役をやってみない?相手役に来てるよ」と言われてもお断りしていて、それで食えなくて、舞台ばかりやっていました。だんだんと歳を重ねてきた今は、来た仕事に関しては、スケジュールが合う限り、なるべくやるようにしようと思っています。ただ、本当は年に最低2本は舞台をやりたいんですけど、1年に1本ぐらいしか出来ないので。