Nov 10, 2025 interview

シム・ウンギョン&堤真一 インタビュー つげ義春作品の魅力を現代に。見知らぬ土地で、心がほどけていく『旅と日々』

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『ケイコ 目を澄ませて』(2022) 、『夜明けのすべて』(2024) と発表する度に映画賞を席巻する三宅唱監督が、次に映画化したのはつげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」から連なる『旅と日々』。物語は行き詰まった脚本家が旅先で人と出会い、ある騒動を起こす温もり溢れるロードムービーです。キャストには『新聞記者』(2019) で第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得し、日韓で活躍するシム・ウンギョンと堤真一、更には河合優実、髙田万作が顔を揃えています。

本作は第78回ロカルノ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に選出され、最高賞となる金豹賞とヤング審査員賞特別賞を受賞しています。今回は、主人公【李】を演じたシム・ウンギョンさんと、【べん造】を演じた堤真一さんにお話を伺います。

ーーつげ義春さんの原作を三宅唱監督による映画化で、お二人が共演するという企画を聞いてどう思われましたか。

:僕は原作を読んでいなくて。つげさんの旅日記みたいなものは読んでいたんです。監督もおっしゃっていましたが、実はシムちゃんの役は男性で考えていたそうです。それが脚本を書いている間に壁にぶち当たってしまって、シムちゃんを思い起こしたらどんどんと筆が進んでいったそうです。僕らは冬編で絡むのですが、男性があの役を演じたら【べん造】の宿には泊らないと思うんです。シムちゃんなら“しょうがない”と思って泊っちゃうような雰囲気があって、「役にピッタリですよね」という話を三宅監督としました。

シム:私は堤さんが【べん造】さん役ということを聞いて、本当に嬉しかったです。“堤さんとまたご一緒出来たらな”といつも思っていたんです。撮影に入る前に少し緊張もしましたが、撮影初日の段取りの時に2人で台本の読み合わせをしてからは不思議と緊張もなくなって、堤さんのお陰で最後まで無事に撮影を終えることが出来ました。

ーー【李】さんと【べん造】さん、2人の掛け合いが大好きでした。あのデコボコ感がたまらく良かったです。

シム:撮影前に堤さんとの本読みは一切なかったんです。現場に直接入って、そこから生まれるものが多くありました。お互いのキャラクターの距離感が凄く大事な作品だったし、慣れていない関係性があるから、そのバランスをどう取りながら演じたらいいのかを工夫しながら撮影しました。後半には2人のお芝居でアドリブも結構あります。そこは最初から最後まで「こうやろう、ああやろう」という打ち合わせもせずに、現場に入ってからふと言えた、出てしまった言葉です。あまり緊張もせず、リラックスしてお芝居が出来たのは監督と堤さんの力だったと思います。

:監督のチームは何か不思議で、凄くプロフェッショナルなんだけど、僕たちに変なプレッシャーはかからないんですよ。本当に映画が好きで、美術ひとつをとっても演技を助けてもらえる雰囲気があって、芝居するのに必要なものをスタッフが完全に用意してくれている。2人で初めて喋るシーンは物語の関係性的には距離があるんだけど、演じていて凄く楽しかったんです。

シム:楽しかったですね。漫才みたいで (笑) 。

:その撮影が終わって何日かした後に監督がそのシーンを「リテイクしたい」と。「こんなこと言ったのは初めてですけど、お願いします」と言われました。それで「どうしたんですか?」と聞いたら「2人の距離が縮まり過ぎで」とおっしゃって。それを聞いて、僕もシムちゃんも「確かに2人でやっていて楽しかったもんね」と、それが多分前面に出てしまっていたんです。そこから監督と3人でロケをしていた温泉場の銭湯の入り口辺りで台本をチェックして「これ自分の事を話すから、多分、お互いを近くに感じるんだよね」とか「このセリフいる?」と話し合いながらセリフをカットして、それでもう1回リテイクしたんです。

シム:そうでしたね。今思い出すと結構漫才みたいで自分も楽しくて。楽しさがお芝居に出てしまいましたね (笑) 。

:楽しんじゃったよね。距離をとっているようで、楽しんでいる空気が出てしまったみたいです。