――河瀨監督の現場に入ると感覚が変わるとよく聞きます。井浦さんの感覚も変わられたのではないですか。
そうかな・・・10年ぐらい前から注目はしていたんです。でも、そういう意味ではちょっととんがり過ぎていたし、最近は、結構柔軟になってきた気がして“一度、やってみたいな”と思ったんです。
――今後、映画で表現したい題材やご一緒したい人が居たら教えて下さい。
いっぱい居ます。ここ最近、多くの人と知り合う機会があって“この人、いいな”と思う人が有名、無名問わずいらっしゃいます。パッと思いつくのは野村萬斎さんです。全然、接点がなさそうですけど(笑)以前、映画に出演されているのを観て“この人の味は決して表面的ではない”と思っていたので“出来たらいいな”と思いました。
後は土屋太鳳ちゃん、急に連絡があって私の作品『あん』か『2つ目の窓』(公開:2014年)を観たらしいです。あの世代は『2つ目の窓』を観て凄く衝撃を受ける人が多いんです。「通行人でいいので出演させて下さい」と言うけれど“もう、通行人は無理だと思うよ”と太鳳ちゃんには言いました(笑)。
――最後に描いてみたい題材を教えて下さい。
ホラー、コメディとホラーはずっとやりたいと思っています。一番難しいと思っているからです。凄くわかりやすいからこそ、それが一流でやれたら凄いと思っています。チャップリンしかり、笑いの中にある人間性とか。ホラーはジャンルになっていますが、奈良を夜歩いていると、気配とかを感じ、すごく怖い時があるんです。ジャパニーズホラー特有の、ゾンビを登場させて人を驚かすとかじゃなくって、精神的に怖くなっていく感じをやってみたいと思っています。ホラーは人間の心理を描くので、内面的な部分というのは人間を知ることになるからいつか撮りたいですね。
河瀨直美監督自身が、10歳の時に養子として老夫婦に育てられた経験から、この原作を映画化したいと思ったそうです。だからこそ息子・朝斗の視点、二人の母親の心情、井浦新さん演じる父親の思いなど、それぞれの感情がスクリーンから溢れ出す映画『朝が来る』。浅田美代子さん演じるNPO法人代表の“血の繋がりではない子供のための親”という真っ直ぐな想いが、多くの人に届き、子供たちが安心出来る未来が訪れることを切に願い、感情を揺さぶられ涙が止まらない大傑作が誕生しました。
文 / 伊藤さとり
一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?世界で高い評価を受け、カンヌ国際映画祭では欠かせない存在となった河瀨直美監督の待望の最新作は、直木賞・本屋大賞受賞のベストセラー作家・辻村深月によるヒューマンミステリーの映画化。現代の日本社会が抱える問題を深く掘り下げ、家族とは何かに迫り、それでも最後に希望の光を届ける感動のヒューマンドラマが誕生。
監督:河瀨直美
原作:辻村深月『朝が来る』(文藝春秋)
出演:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子ほか
配給:キノフィルムズ / 木下グループ
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