初の劇場映画『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)」を史上最年少で受賞して以来、快進撃を続ける河瀨直美監督。観るものを捉えて離さない画力とリアリティは、世界中の映画ファンを魅了してやみません。そんな河瀨監督が次に注目したのは、「特別養子縁組」により、出会うことになった子供を持てなかった夫婦と、子供を手放さなければならなかった14歳の少女の物語『朝が来る』。辻村深月さんの小説に惚れ込んだ河瀨監督が描く子供からの視点。冒頭から一気に引き寄せられる“二つの心の海”をどうやって生み出して行ったのか?河瀨直美監督にお話を伺います。
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――「特別養子縁組」について学ぶきっかけにもなりました。原作を読まれて映像化するにあたり、ここは特に映像化しよう、広げようと思った箇所を教えて下さい。
そうですね。「養子縁組」は知っているけれど「特別養子縁組」については、みんな知らなかったし、私も知りませんでした。
映像化する上で特に意識したのは、音楽、C&Kです。これは原作に無いものですが、映画では時間を繋がないといけないので。この映画は(片倉)ひかりと(栗原)佐都子、二つの人生を描かないといけないけれど“ブリッジをどうするんだ”って感じでした。パンパンパンってやったら全然面白くないですし。そこはちょっと色々と考えて、音楽をヒットナンバーにすることで主題歌「アサトヒカリ」を書き下ろしで作って頂きました。
――物語の中でスポットを当てようと思った部分はどこですか。
子供の受け渡しです、二度と出来ないと思いました。テイク1、テイク2なんて出来ないですから、その瞬間にかけました。
――確かに忘れられないシーンでした。片倉ひかり役の蒔田彩珠さんのあの表情は、凄かったです。どんな演出をされたのですか?
順撮りなんです。子供を産むシーンからもちろん演じてもらって、子供を持って行かれるシーンまで順撮りにしているのであの表情が撮れたんです。
――今までも血の繋がりへの問いを描いている作品がある中で、若者の問題や特別養子縁組についての問題を1本の作品として見事に映像化されていると思いました。意識した部分はありますか。
フラッシュバックは使いたくなかったんです。過去を表現するのに永作博美さんが演じている佐都子が考える「今の記憶」、今を撮りたかったんです。それに凄くこだわりました。だからショットも実は違うんです。「記憶」のところは凄くカメラに浮遊感があります。
佐都子がご飯を食べていたり、レストランで「子供ができたら来れないよね、こんな所」って言っている言葉は実は過去なんですけれど、現実を描いているので過去に見えない。過去に見えないように凄くこだわって撮影しました。
――社会問題を映画化することに対して、どんな思いがありますか。
社会問題は、ニュースとかになると社会問題になるんです。でも、これは個人、人間の問題です。『あん』(公開:2015年)では、ハンセン病を描いていますが、あくまでも樹木希林さん演じる吉井徳江さんの物語です。本作は佐都子とひかりを繋ぐ物語でもあります。社会問題というとなんだか一括りみたいな感じがして、人物が見えない。やっぱり人を描きたいと思っているので、社会問題を描いているつもりはないんです。
――監督はその人に焦点を当て、映画を作っていらっしゃいますが、観ている人間も気付くと登場人物の心に深く深く入り込んで行きます。それは河瀨監督の視点だと思っています。意識していることはありますか。
自分が開くですね。相手が開くということは、自分が開かないと相手も開かないから。俳優たちの時間、流れている時間を待つ感じです。
――井浦新さんや永作博美さんにとっても挑戦だったと思います。
彼らは日本の俳優の中でも売れっ子なので、永作さんとか凄く上手いです。でもその上手さがちょっと演じているようにも見えたりするんです、それを全部排除していく感じでした。「ちょっと違うよね、違う気がする」って(笑)生々しさ、リアルは全然違う。“脚本の台詞を言っているよね”っていうのはわかるんです。
新君は芝居があまり上手くないと私は思っているんです(笑)だから芝居をさせては駄目だと思っていて・・・彼は本当に素直で、どちらかと言えば天然なんです。こだわりとかも凄いし、それをリアルに出してくれればいいなと思ったんです。なのでデートコースも新君自身に選んでもらうようお願いして、彼が自分でプランニングして来ました。レンタカーの予約まで、全部、自分でやってましたよ。