ーー何を演じても楽しいと思えるようになったのは、いつからですか。
う~ん。最初は全然楽しいと思っていなかったんです。
ーーえ、そうなんですか !?
やっぱり緊張するし、わけのわからない世界というか、正解がない中でずっとお仕事(お芝居)をする。「OK」と「もう1回」というジャッジもありますよね。だから“「こうやるんだよ」と見せてくれたら演技出来るのにな”と最初は思っていました。台詞の言い方とか、「ここで間をとる」とか、台本にある文字を見て演じないといけないので、だから“正解は?正解は?”とずっと思っていました。勉強だったら先生が教えてくれるのに誰も教えてくれない、大変な世界なんだと、どこまで行ってもグレーの中で、現場で答えをもらう仕事なんだと思っていました。現場に居ることは好きだったけれど、演じるということに対して「楽しい」と思い始めたのは、いつなんでしょう?自分でもよくわからないです。
ーーなるほど、何かあったんですかね。
あ!思い出しました!“現場は好きだけど、お芝居をやることが自分は向いていないのかな?お芝居は難しい”と私自身が思っていた時に、舞台を観に行ったんです。その時、舞台上でもの凄くキラキラと輝いて見える人が居たんです。終演して歩いていたら、ムロツヨシさんと出口のところでたまたまお会いしたので、ムロさんに聞いたんです。「お芝居を観ていて、輝いているように見える人って何が違うのですか?」と訊ねたら、「その人が楽しんでいるかどうかじゃない?」と凄くシンプルな答えをもらったんです。その言葉がきっかけかもしれません。
私はジャッジしてもらおうと思って“正解ってなんだろう?”とずっと考えて来てしまったけれど、“自分が楽しいかどうか?”を自分がジャッジしていいところまで来ているのではないかと気づいたんです。自分が楽しんでいるかどうかを目標にお芝居をやってみてもいいんじゃないかと、ムロさんに言っていただいことで思ったんです。多分、そこからです。楽しむということが大前提になって“楽しい”と思えるようになったのは。ごめんなさい、ムロさん、忘れていました(笑)。
ーームロさんに言わなくちゃ、ですね(笑)

長きお付き合いとなる蒼井優さんの「芝居を楽しむ」というお話が、とっても面白くてどんな職業でもこれは同じかもしれないと思ったインタビューでした。映画イベントのMCで特に印象に残っているのは初単独主演作となる『ニライカナイからの手紙』(2005)。終始ニコニコとしていてこちらも笑顔になって舞台挨拶に立った記憶は、今も鮮明に残っています。そんな蒼井優さんが「うちの息子は天才!(演技での親)」と言った嶋田鉄太くんとの家のリビングでのゆるい語らいもすべて台本通りでアドリブ無しとのこと。何気ない日常から子どもの知的好奇心がまさかの展開を迎える「子どもの自由な世界」が描かれた『ふつうの子ども』は、子どもはもちろん、大人たちにはハッとするシーンの連続なので見て欲しいのです。

上田唯士、10才、小学4年生。両親と3人家族、おなかが空いたらごはんを食べる、いたってふつうの男の子。最近、同じクラスの三宅心愛が気になっている。環境問題に高い意識を持ち、大人にも臆せず声を挙げる彼女に近づこうと頑張るが、心愛はクラスの問題児、橋本陽斗に惹かれている様子。そんな3人が始めた“環境活動“は、思わぬ方向に転がり出して‥‥。
監督:呉美保
出演:嶋田鉄太、瑠璃、味元耀大、瀧内公美、少路勇介、大熊大貴、長峰くみ、林田茶愛美、風間俊介、蒼井優
製作幹事・配給:murmur
©2025「ふつうの子ども」製作委員会
公開中
公式サイト kodomo-film
