『そこのみにて光輝く』(2014)で第87回米アカデミー賞 外国語映画賞日本代表に選ばれたほか、多くの映画賞を受賞した呉美保監督と脚本家の高田亮氏が3度目のタッグを組んだ『ふつうの子ども』。企画を立ち上げた菅野和佳奈プロデューサーが願ったのは、伸びやかな子どもの姿と家族の日常。その願いどおり、小学4年生の男の子・唯士の淡い恋心や同級生の女の子・心愛の知的好奇心の裏に潜んだ親への思いまで、しっかりとスクリーンに焼き付いているのです。もちろん主演は子どもである俳優の嶋田鉄太さん。多くの子どもが出演する中、大人達がしっかりサポートしている点も注目。今回は、唯士の母【上田恵子】を演じた蒼井優さんにお話を伺います。

ーーまずどんな所に惹かれて、出演を決められたのですか。
呉監督の作品ということも、もちろんありますが、台本を読んだ時に、“見たことのない映画だ”と思ったんです。“呉さんだったらこの台本をどんなふうに仕上げるのか?”という期待しかなかったんです。それにせっかくお声がけをいただいたので、“やってみたい”と思い、ご一緒しましたが、期待以上でした。
ーー呉美保監督の演出は、他の監督とどう違うのですか。
それが分からないんです。一見、普通なんですよね。「こうしてください」とか「ここでの気持ちはこうですから」とか、そういう説明をサラッと伝えながらも的確なんだと思います。それぞれの役者さんにあわせて、今、必要な言葉を最小限の言葉でポンと渡す、「それで」みたいな感じなんです。たぶんコミュニケーションを取るのがお上手なんだと思います。現場と関係のない余計な会話もたくさん出来た気がしています。あとはプライベートなお話もすごくしてくださるので、こちらも呉監督のことを知ったような気になるんです。ある程度は隠している部分もあると思いますが、深く話してくださるので、そばに居て緊張しない空気を生み出していて、それが“素晴らしいな”と思いました。

ーー確かに呉監督は気さくで話しやすいですよね。それに蒼井さんと息子役の嶋田鉄太くんの親子(息子【上田唯士】と母【上田恵子】)ペアのような衣装がとても可愛かったです。
「とにかくカラフルな衣装にしたい」というお話だったんです。なので、結構明るめのお洋服を着ました(笑)。息子を演じた(嶋田)鉄太くんとは、私が1回目の衣装合わせの時に体調を崩して別々の衣装合わせになってしまった分、私の時にはある程度しぼられた状態で、ほんのちょっとだけ保留していた感じでした。

ーー自己肯定感を上げようとするお母さんでしたね。
ね、本人の自己肯定感はあまり高くないところが面白いんですよ。すぐ本を読もうとする感じとか、さりげなく頑張っている人で。呉監督が「良いお母さんでなくていいですから」とおっしゃって、“そっちでいいんだ”と。今までは、現場で子どもを際立たせる為には、周りの大人はフラットな感じの方がいいのかなと思っていたんです。今回は子どもが主役の話だから尚更、そう思い込んでいました。でも大人もガヤガヤしていて、家庭内のギクシャクとかも分かる感じの駄目なお母さんでいいんだというのが新鮮でした。“なるほど、これが呉組なんだ。これが呉組の家族なんだ”と思いました。
ーーちゃんと自分たちの家族、そしてママ友たち家族を見ているんですね。
結構、お母さん方に取材されたと聞いています。