――私も取材に行って感じましたが、カンヌ国際映画祭の空気感と映画が見事にハマっていましたよね。石川慶監督とのやりとりで印象に残っている言葉はありますか。
撮影に入る前に監督に質問したことがあって、それは【ニキ】が「ママは私のこと、ちっとも興味がなかったじゃない」と言う台詞があるんですが、あの言葉は【悦子】にとってもの凄くショックなことなんです。何故ならば長女【景子】との関係性も上手くやれなかったからなんですよね。それだけではなく、【景子】にかまけていたせいで、次女【ニキ】にも寂しい想いをさせてしまったことを突き付けられるからです。なので、あんなふうに娘から言われて、果たして【悦子】は普通でいられるのだろうか?と。そういったことを監督に投げかけたところ、「整理がつけられない関係もまた家族なんだと思います。そういう部分も含めて【ニキ】は母【悦子】を受け入れ、そして【悦子】も不完全な母親である自分を受け入れている。その姿を【ニキ】に見せることで【景子】の死を受け入れて、前に進めるようになるのではないでしょうか」と返して下さって、この複雑な気持ちを持ったままでいいんだと少し安心しました。
二階堂ふみちゃんが、インタビューなどで「多面性」とおっしゃっていますが、人間は完全ではないし、そして失敗もするし、後悔もする。でもそういう出来事の裏には少なからず幸せな瞬間とか、希望の瞬間があるということ。だからこそ、もう一度前を向いて歩いていける。立ち止まったり、進んだり、ちょっと後ろを見てみたり、そんなことの繰り返しが人生で、【悦子】さんが今まさに前を向こうとする瞬間、それがこの映画なんだろうなと思います。監督の頭の中にしかこの映画の全体像ってありませんから、私たちは監督の演出を信じてついて行くしかないわけですが、完成した作品を観て、“こういうことだったんだ”と初めて気づくこともありました。この映画が、多かれ少なかれ同じように痛みや苦しみを抱えている人、そして喪失を経験したことがある人に、寄り添うことが出来ればいいなと思っています。

――人生の分岐点を見るような映画でした。羊さんの人生を変えた分岐点のような人との出会いを教えて下さい。
沢山いらっしゃいます。私を映像に導いた方もそうですし、映像に入って私を見つけて下さった中井貴一さんもそうです。中井貴一さんが三谷幸喜さんに繫いで下さって。私が世間に認知して頂くきっかけとなった「HERO」というドラマにキャスティングして下さったプロデューサーさんもそうです。もちろん今回の映画に導いて下さった石川監督もそうです。本当に色々な方にご縁を繋いで頂いて今、ここに立たせて頂いていると思います。
