――忙しいと忘れがちな大切なことを、沢山思い出させてくれる映画だと思いました。黒川さんは『怪物』(2023) で、第47回日本アカデミー賞で新人俳優賞、第66回ブルーリボン賞新人賞他、多くの賞を獲られました。今公開中の、『国宝』も大いに話題になっています。今の時点で、俳優という仕事とどう向き合っていますか。
「俳優さん」と僕のことを言ってくれることが、まず嬉しいです(笑)。
ちゃんと自分を「俳優」だと思って演技をしている感覚があまりなくて、黒川想矢として居るというよりは、その役として毎回、毎回、シーンを体験しているという感覚に凄く近いような気がしています。
でも、役者さんとしては、それではいけない時も沢山あると思うんです。そういうことが出来る舘さんは「想矢はそのままでいい」と言って下さったんですが、そのままではいけないのかもしれないとやっぱり自分では思っていたりもしています。そんな感じです。

――演技では「楽しい」という気持ちを大事にしようとインタビューでおっしゃっていましたね。
楽しいと思うというよりは、もの凄く楽しいんです(笑)。楽しめば、楽しむほど、楽しい。自分は結構現場で悩んでしまうタイプなんです。でも「楽しめ」って誰かに言われた気がして、今ももの凄く楽しいですし、分からないことだらけの中でやらせて頂いているので、よく分からないけれど楽しんでやったらきっといいのではないかと思っています。
――俳優はしばらく役に入り込んで引きずってしまうタイプと、「スタート」という言葉でポンっと役に入って、「カット」の声と共に役がすっと抜けるタイプが居ると聞きます。黒川さんはどうですか。
自分ではよく分からないのですが、『怪物』の撮影の時は、自分の中で上手く切り替えることが出来なくて、ずっと役が隣に居るような気分で、凄く苦しいというか、悩んだことがありました。それは『国宝』の撮影の時もそうでした。でも『この夏の星を見る』の時は違って、今までは自分が浸食されていくみたいな感じだったのですが、今回は結構、役が自分に近くて遠い感じだったので、自分が役に浸透していく感覚に近かったです。
――自分に近いとやりづらいということはないですか。
極端に自分と遠かったり、自分に近いとやりやすいんです。今回は、近くて遠いキャラクターだったので分からないことも多くて、山元監督と「この台詞はこうですか」と話し合ったりして、現場で生まれるものを大事にして演じました。
