――私は直実って凄く生きづらいのではないかと感じていました。
私は登場人物の中で、直実が一番頑固だと思っています。絶対に曲げないというか、頑固なので実は意外と生きづらくないのではないかと。岸井さん演じる愛子の方が生きづらいと思います。愛子はサバサバしているように見えて、意外と脆いところがある。直実は人のことを寄せ付けないし寄ろうともしない、そしてそれを苦痛と感じずに人との関係性に関して葛藤しないことで、逆に生きやすいのではないかと。どうなんだろう?
――多部さんは生きづらいと感じたことはありますか?
ないです、ないと言いたいです(笑)
思ったことはすぐに口にするし、悩むことがあっても思い悩むことはないです。嫌なことがあっても友達と喋って発散して終わりですね。
――映画やドラマで色々な役を演じられていますが、切り替えはどうしているのですか?
私のなかでは、撮影が終わったらそこで終わりなんです。引きずることも考え込むこともないですし、振り返ることもない。だから、良くも悪くも反省もしないので後悔もないんです。終わったことは考えないですね。(笑)
――直実がインタビューで“あなたの夢は何ですか?”と聞いていますが、今の多部さんの夢は何ですか?
夢。今日の夢は、家に帰ってドラマを観ることです(笑)いま、面白そうだなと思っている作品があるのですが、なかなか見られていないので“今日見よう”と決心していました(笑)そのドラマを見ることが今の私の夢です。
――ちなみに自分が出演されたドラマは見るんですか?
自分のドラマは出来上がったら一回は見ます。“こういう感じに編集するんだ”という目線で見ています(笑)
――最後に、ずっと続けている“女優”という仕事のやりがいを教えて下さい。
ドラマの現場では、視聴者の皆さんに伝わりやすい内容をやっていることに楽しみを感じています。今回の映画は、脚本を読んだ段階では本当にわけが分からなくて、そんな中で自分なりに解釈をして撮影に参加しました。出来上がった作品を観て、分かりやすい表現じゃない2時間って“いいな”って思いましたし、色々な空気の現場に居られることに、凄く幸せを感じました。やりがいは、色々な空気感に触れられること。それを凄く楽しいと感じながら過ごしていますね。
デビュー以来、ずっと観続けてきた多部未華子さん。無理になんでも理解しようとせず、真っ白な気持ちで真っ直ぐに役と向き合うからこそ、多くの人に共感される等身大の女の子が生まれる気がしてならないのです。答えは観客それぞれが持ち帰るのが映画の醍醐味。だからこそ、主人公・直実の感情が、忙しく毎日を送る人々の心にジワジワと染み渡っていくんですよね。本当の自分の思いに気付いているのか?素直に自分の思いを口に出来ているのか?“つらい時は、誰かに寄り添っていいんだよ”と映画から囁きかけられているようで優しい気持ちに包まれました。
文 / 伊藤さとり
東京という街で、最も都会的な場所のひとつであるタワーマンション。郊外の小さな出版社に勤める28歳の直実は、両親の急死という出来事を受け止めきれないまま、大都会を見下ろすタワマン高層階の一室で暮らし始めることになる。寄り添っているのは長年の相棒、黒猫のハルだけ。そんな彼女の前に突如として現れたのは、日本を代表するスター俳優、時戸森則だった。抱えてしまった大きな喪失感を埋めるように、時戸との夢のような逢瀬に溺れていく直実。しかし彼との関係には、現実感も将来も見いだすことができない。果たして直実は、見失ってしまった自分を取り戻すことができるのか・・・?
監督・脚本:青山真治
脚本:池田千尋
出演:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典
原作:小竹正人『空に住む』(講談社)
配給:アスミック・エース
©2020 HIGH BROW CINEMA
2020年10月23日(金)全国ロードショー
公式サイト:https://soranisumu.jp/