Feb 27, 2025 interview

ゴリさんこと照屋年之監督インタビュー ある1組の夫婦の形であり、ある1組の夫婦の物語として丁寧に描いた『かなさんどー』

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――【美花】役の松田るかさんが「かなさんどー」を歌いながら涙を流します。あの一連のシーンをしっかりワンカットで撮影されていてグッときました。

あそこの一連は使わないつもりだったんです。当初は後半部分しか使う予定ではなかったのですが、彼女が泣き出してしまって。だけど、それが良くて結果的に編集で使うことにしました。この前、『洗骨』に出てくださった奥田瑛二さんと話したのですが「久々にイイ若者が出て来た」と(松田)るかちゃんのことを言っていました。るかちゃんは演技が上手いんです。彼女は器用で色々な役を演じることが出来るんですよ。

――私は最初に登場する女性が松田さんだとは思わず、別の人だと思って観ていたんです。その後、美花がしっかりメイクをして登場した時に、「あぁ、なるほど」と思いました。あまりにも雰囲気が違っていたので驚きました。

そうなんです。最後の伏線回収は、観ていて気持ち良いと思います。全部が大集合するので(笑)。

――堀内敬子さんは、凄く好きな女優さんです。

堀内さんが好きな人、多いですよね。台所のシーンがとっても良いんですよね。愛する人が好きな料理のティビチ(沖縄の煮込み料理)を作るシーン、お見事です。あのシーンは堀内さんの名演技です。

――堀内さんをキャスティングしようと思われた理由を教えて下さい。

堀内さんの色々な作品を観て思ったんですが、可愛らしい演技もするけれど、彼女は非常にコメディエンヌなんです。特に表情とかが面白いんです。それで、“この人といつかご一緒出来たらいいな”と思っていたんです。今回の【美花】の母【知念町子】という役は可愛げがあって、歌が抜群に上手くないといけないんです。それで歌の上手い方を探していて、堀内さんが劇団四季出身と知り、堀内さんが歌を歌っている映像などを観て、堀内さんにオファーすることを決めました。

――かなさんどー」という沖縄民謡の楽曲をこの映画で知りましたが、歌詞ももちろん、美しいメロディですね。

もともとこの曲はポップ・ミュージックなんです。それを今回の映画用にバラードに変更しています。幼い頃から有名で、沖縄ではよく流れていた曲です。実は最初から主題歌を「かなさんどーにしようと思っていたわけではないんです。映画を作るにあたって、【悟】と【町子】という夫婦のことを歌っているような沖縄民謡を探していました。沖縄民謡にも色々な恋愛の歌があるんですが、その歌詞を全部見て「これは違う。これも違う。こういう夫婦関係じゃない」と色々と探していくなかで、「かなさんどーの歌詞を読んだ時、「これだ!」と一番ピッタリハマッたんです。

それで「「かなさんどー」をバラードにさせて下さい」と作詞・作曲を手掛けた元ちゃん(沖縄民謡歌手の前川守賢さんの愛称)に歌の使用とバラードへの変更、タイトルとして使用することの許可を頂きに行きました。ちなみに「かなさんどーは5番まであるのですが、映画に合うのは2番と4番の歌詞だけなんです。だから、映画では2番と4番しか歌っていません(笑)

――そうなんですか(驚)。そのお話を聞いてしびれました。今、この時代にあえて【悟】と【町子】のような夫婦の物語を描いた点も良かったんです。【町子】のようなお母さんって昭和時代には居ましたよね。でも、令和になり、このような考え方を否定する方たちもいらっしゃいます。でも「その人が幸せであればそれでいい」という考えを再認識できました。それもありだよねって思えたんです。【町子】のようなお母さん像を作るのは難しかったのではないですか。

本当に難しかったです。「何で男にそんなに気をつかわないといけないんだ」と今の時代は否定されてしまうので。でも【町子】のような女性像が正しいと言っているつもりもありません。あくまでもある1組の夫婦の形であり、ある1組の夫婦の物語として丁寧に描いたつもりです。

――登場人物を描くうえで大事にしていることはなんですか。

あまりにも非現実過ぎる人物は描かないようにしています。そして、登場人物には生きている言葉を喋らせるようにしています。脚本を書いている時は、何度も書いた台詞を口ずさんでいます。「日常会話でこんなことは言わないだろう」という言葉は使わないようにしています。出来るだけ不自然にならないように何度も台詞は書き直しますね。