一度は憧れるスローライフ。そんな夢を叶えようと若い夫婦が見つけた新天地には狂気じみた掟があった‥‥。『嗤う蟲』は、各地で時折、トラブルとなる「村八分」問題に着目して生まれた作品。脚本は『先生を流産させる会』(2011) 、『ミスミソウ』(2017)を監督した内藤瑛亮が担当し、共同脚本と監督を『アルプススタンドのはしの方』(2020) 、『ビリーバーズ』(2022) の城定秀夫という攻めた組み合わせが実現。そして主演の深川麻衣が、夢と現実のギャップに翻弄されながら幸せを求め戦う若き妻を演じます。
そんな本作で深川さんの夫役を務めるのは『市子』(2023) 、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(2024) の若葉竜也さん。さらには東京から来たこの若い夫婦を苦しめることになる自治会長を、俳優だけでなく『アイデン&ティティ』(2003) や『色即ぜねれいしょん』(2009) などを監督する田口トモロヲさんが務めます。今回は、以前から交流があるという若葉竜也さんと田口トモロヲさんにお話を伺います。
――今回、ガッツリと共演されましたが、若葉さんは以前から田口トモロヲさんをリスペクトされていましたよね。
若葉 はい、トモロヲさんは凄く丁寧で優しいんです。本当に全ての役者、スタッフに敬意を払ってくれるんです。でも、滲み出る狂気というか、ご一緒しているとヤバいものに触れている感覚になるというか‥‥、ご本人を目の前にして言うのはなんですが(笑)。この感覚はトモロヲさんと21歳の時に初めて共演させて頂いた『GANTZ PERFECT ANSWER』(2011)頃から変わることがないです。未知なるものに触れているような、少し胸がざわつく感じが凄く魅力的だと思います。
田口 『GANTZ PERFECT ANSWER』の共演時に若葉君から「『アイデン&ティティ』が大好きなんです」という愛の告白をされたんです(笑)。
若葉 告白しました。
田口 そんな良い子はそう居ないよね(笑)。その時、「そうなんだ、ありがとうね」って伝えたんです。当時の若葉君は、鶏の唐揚げさえ食べさせていれば凄く満足している子どもだったので、さっそく「唐揚げ、好きなだけ食べて」ってご馳走しました(笑)。その時『アイデン&ティティ』の話とか色々と聞きました。それ以来、きちんと共演する機会がなかったので、今回の共演は本当に嬉しかったです。
――プライベートでお会いしたりとかあるんですか。
若葉 何度かご飯に連れて行ってもらいました。21歳の頃は、僕はまだアルバイトをしていたんですけど「渋谷でご飯を食べよう」という話になって、その時の手持ち金が往復電車代ギリギリだったんですけど、渋谷に行きました(笑)。トモロヲさんに会いたかったんです。こんなチャンスはないと思いました。
田口 そんな状態だったのなら家の近くまで行ったのに(笑)。言ってくれたら渋谷まで呼び出さないし、家の近くまで唐揚げを山盛り持って行ったよ。
若葉 いえいえ、凄く良い思い出でめちゃくちゃ覚えています(笑)。
――田口さんは今の若葉さんの活躍を見て、どのように感じていますか。
田口 基本は今も昔も変わっていないのが嬉しいです。年月の間に様変わりしてしまう人も色々見て来ましたから‥‥。でも、若葉君はベースが凄く純粋なところも、役に真摯に向き合うところも変わってなかった。そこが嬉しかったし、“いいな”と思いました。
――今回の映画では田口さん演じる【自治会長:田久保】のカリスマ性に取り込まれていく【輝道】役を若葉さんが演じられています。演じる上で、これまでの関係性が役に立ったことはありますか。
田口 どうかな?若葉君は、いつも撮影現場では静かに役に集中するタイプだと思うんだよね。何度も『アイデン&ティティ』の話になって申し訳ないんだけれども、今回の現場で彼は『アイデン&ティティ』のポスターが欲しくて、中野ブロードウェイとか、古い映画ポスターを扱っているお店に行ったんだけど凄く高かったという話をしてくれたんです。それで「確か家にポスターが残っているはずだから、それを持って来るよ」と伝えて、何枚かプレゼントしたんです。そしたら凄く喜んでくれて、その姿を見ていた『嗤う蟲』の現場スタッフさんが「この現場で、若葉君があんなに笑っている姿を見たことがない」と言っていました(笑)。だから若葉君は役に集中してずっと佇んでいる人だから、そんなにも喜んでくれたことが嬉しかったです。
若葉 めちゃくちゃ嬉しかったです。Yahooオークションとかでも調べたりしたのですが、ポスターを売ってなくて、「あった!」と喜んでも凄く高かったんです。僕はゼロ年代(2000年代)のポスターを集めるのが好きなんです。何枚か好きな映画のポスターを持っているんですが、『アイデン&ティティ』だけずっと見つからなかったんですけど、やっと手に入れました。今は大きな額縁に入れて部屋に飾っています。