Oct 18, 2024 interview

井浦新×永瀬正敏インタビュー 甲斐さやか監督の魅力がつまった5年ぶりの新作『徒花-ADABANA-』

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――永瀬さんは今回、カメラマンとしても関わっていらっしゃいます。『徒花-ADABANA-』の世界観を切り取られていますが、とても面白いと思いました。どんなことを意識されていたのですか。

永瀬:最初に出演でお話を頂いた時に「写真も撮影してもらえませんか」と言われて、非常に嬉しくて「是非、やらせて下さい」と快諾したんです。その後、何度か打ち合わせをして、甲斐監督がコンテ(イメージ画)を描かれたりして、「こういうのがいいんじゃない?」というような話し合いの中で「監督の世界観を写真でも表現します」という感じになりました。あとは僕が脚本から受け取った各役柄のイメージと、ロケハンに行かせて頂いて、そこで発見したものなど、やりながら思いついたものを撮影しました。

例えば、山の中であるシーンを新君と【まほろ】役の(水原)希子ちゃんが撮影している時、僕は邪魔にならないところでライティング等のセッティングをしていたんです。僕はそのシーンの撮影がすんなり終わると思っていて、2人に負担をかけずに撮影が出来るなと思いながら準備をしていたんです。そしたら急に怒鳴り声が聞こえてきたんです。最初、撮影中とは気が付かなくて“これは最近では珍しい現場で喧嘩が始まったのではないか?止めに行かないといけないのではないか”と思っていたんです。そしたら今度は女性の声が聴こえてきて、そこで“これはシーン(演技)なんだ”と理解することが出来ました。

でも“こんなシーンあったっけ?”と不思議に思っていて。その後、皆が帰って来て「感情を出すところが変更になった」と聞きました。同業者なのでわかるのですが、あの叫びはお芝居でする叫びではありませんでした。本当に2人とも魂の叫びでした。準備段階で撮影させて欲しいイメージはあったのですが、あの2人の叫びを聞いたことで全然違うイメージが湧いてきて、“このイメージでも撮らせて欲しい”と思ったんです。甲斐組にはそういう瞬間があるんです。

井浦:ありますね。本当に。

永瀬:全て終わって帰って来てから“もっと『徒花-ADABANA-』を撮りたい”という気持ちにもなりました。新君がクローンと二役を演じるということだったので、クローンの始まりのイメージ、シャーレみたいなビーカーみたいなビンに半分だけ水を入れて、半分浸かるように花を挿す。「もしかしたらこっちがクローンでそっちが本体かも、いや反対かも」という感じの写真がどうしても撮りたくなって、家をまっ暗にして、飼い猫にニャーニャーと鳴かれながらライトをあてて撮影をしていました(笑)。何か不思議な感じでしたね。

それに今回、僕はあまり映りたくなかったんです(笑)。そこも写真を撮らせていただく心持ちと近かったかもしれません、黒子に徹するというか。最初に脚本を読ませて頂いた時に甲斐監督が意図するものは、僕は【新次】で【まほろ】なんだと思ってしまったんです。何かを決断する時って、心の中でせめぎ合いますよね。天使と悪魔ではありませんが。例えば「僕はこのまま生きていていいのか?アイツを殺してまで」みたいな疑問が「いやいや、生きるべきだ」というのと「果たしてそうなのだろうか?」というのが常に決断する時にせめぎ合う。【まほろ】もそうですよね。その葛藤、心もようが具体化した人なんだと甲斐監督の書かれた脚本から感じ取ったんです。だから撮影されるのは「【新次】の顔だけでいい」と、僕が映らなくても成立すると僕は思っていました。監督の意図がそこにあれば、僕はそれでいいと。

撮影ではちゃんとその場に居て対峙するんだけど台詞や表情もフラットにする、それだけでいいと。でも2人ともに【相津】は言葉では肯定しかしません。そこにもう一方の感情のノイズを入れないと甲斐監督の意図が薄れるのでは?と思い、悪魔側からのイメージ、不協和音と言いましょうか「ボールペンをカチカチとするのはどうでしょう?」と相談しました。そんなふうに思っていたので現場でも監督に「僕 (のこと)は撮らなくても‥‥」と冗談混じりに言っていたと思います(笑)。それが甲斐監督の映画にとって大事なことで、僕の演じた【相津】を通しての問いかけシーンであるとも思っていたんです。だから完成した映画を観て「あれ?僕、結構映っている」と思ってしまって(笑)。

井浦:しっかり映っています(笑)。

永瀬:まあ、まったく映らないのも意図的になっちゃいますしね。丁度いい塩梅にして頂いたと思います。でも本当に透明でいたかったです。白衣も着ていますし、白は純粋無垢、白装束という2つの価値を持った色ですから、丁度彼らが悩んでいること、その具現化を監督は表現したいのではないかと、それが【相津】というキャラクターなのではないかと思いました。だから「気を遣われなくても、僕は大丈夫ですよ」と伝えていました(笑)。