Nov 23, 2022 interview

戸田恵梨香×永野芽郁インタビュー 『母性』で悩みながら、お互いをフォローしあって生まれた〈母と娘〉の絆

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“母性”を理詰めて構築し、演じるには?

―― 母娘の距離感は、どのように作っていったんですか?

戸田 撮影中に「母の日」があったんですけど、芽郁ちゃんが、「母の日なので」ってプレゼントをくれて、そうやって母として見てくれているんだなっていうところから安心感が生まれて。それで、すごく自然に気負いなくいられました。

永野 頼もしさしか感じず、一緒にいてもらえたら、絶対に大丈夫って思えるので。

―― 戸田さんは、“母性”というものを、どう捉えてルミ子を演じましたか?

戸田 私のなかでは、ルミ子に共感できないから、「なるほど」とはなれなくて。例えば、私が本当に子どもを産んでいて、経験として子を持つことに対しての葛藤や愛情というものを考えることがあったり、きっかけがあれば、たぶん心理的に表現できることがあるかもしれないと思うんです。

だけど、今までそういうことをしてきたのは愛犬しかいない。愛犬には私の母性が出まくっているんですけど(笑)。やっぱり人間の子どもとなると違うと思うし、経験不足と、見た目をどこまで持っていけるのかという不安、それと感情移入することが決してできない役柄だったので。

―― そうすると、「経験・容姿・感情移入」という入口がない状態で、ルミ子の役作りをされたわけですね。

戸田 これは感情でお芝居するのではなくて、理屈で詰めていかないと成立しない作品だなと思ったので、自分の今の能力勝負というところに賭けてみたっていう感じでした。だから、お芝居していても、かなり頭で考えながらやっていたので、完成した作品を観ても、客観的に観ることができませんでした。

「感動しました」って声を聞くと、「感動するところはどこなんだろう?」ってビックリするくらいです(笑)。どこか遠いところのような感覚に陥るんですよね。その違和感って一体なんだろう?っていうのが、まだちょっと分からないんですけど。

―― 清佳役は、ルミ子とは違った難しさがあったと思いますが?

永野 やっぱり最初に脚本を読んだときと同じ難しさを撮影でも感じましたし、撮影中も、「これで合ってるのかな?」とか、「これってこういうことなのかな?」って、自分のなかでこれだって思えるものが、なかなか無かったのです。母を護るために怒ったり、泣いたりするのは、すごく理解できるんですよ。でも、それを取り巻く環境がやっぱり理解し難いところがあったし、すごく難しいなってずっと思っていました。

そこで、疑問に思うことを戸田さんに相談したら、母の視点も交えながら、いろいろ相談にのってくださって、そこで自分のなかで少しずつ気持ちをつないでいくことをしていました。

戸田 廣木監督は、すごくセッションを取るタイプじゃないし、この役をこういうふうに見せたいとか、この作品をこういうふうに見せたいんだって仰る方でもないので、基本的には役者たちに任せてくれるんですが、いちばん難しかったのが、予告編でも使われていた神父様に言う「私が間違えていたのです」っていう台詞です。

というのは、ルミ子は自分の育て方や、娘に対してかけてきた愛情が間違っていたとは思っていないはずなんですよ。なぜなら、自分の美学のままに、押し付けてきたから。じゃあ、あのとき彼女はなぜ「私が間違っていたのです」って言えたのか? それは、やっぱりルミ子は自分のお母さんに対して、こういうふうに言ってあげることが正解なんだ、喜んでもらえるんだって思いながら、何十年間生きてきたからなんですよね。

―― それを自分の娘の清佳にも強いてきたわけですね。

戸田 どういうふうにしたら、おばあちゃまが喜ぶのか考えて発言し、行動するのよ、って清佳にずっと教えてきた人だから、神父様と向き合ったときも、ここで私、間違えたっていうことを認めないといけないんだと感じたはずなんですよね。

だからある意味で、神父様に言わされたんだって思うと、やっぱりルミ子って、そういう人なんだよねって理解することができたんです。神父様とのシーンは、割と撮影の最初の方に撮ったんですけど、序盤でそこを踏み落とせたことは良かったなと思っています。

―― 自分が出演していないシーンを観たときに“母性”を感じることがありましたか?

永野 清佳の幼少期を演じた落井実結子さんがすごくかわいくて、自分の幼いときがこんなにかわいいなんて、観ながら苦しくなりました(笑)。