映画『秒速5センチメートル』 白山乃愛インタビュー 正統派美少女が表現した未経験の感情 ── 幼き明里が映画へ想うこと

アニメは好きだけど観なかった

——篠原明里役はオーディションで勝ち取ったそうですね。当時の状況を教えてください。

当日に台本を渡されたので、その場で覚えるのに必死だったことを覚えています。そんな中で、相手役の目を見て話すことを意識して演じました。オーディションを受けて、”明里ちゃんを、もっと演じたい”と思ったので、選ばれたときは、本当に嬉しかったです。

——本作は原作がアニメ作品ですがアニメは好きですか?

はい。一番好きなのは『君の名は。』です。「前前前世」が流れて「入れ替わってる?」っていうセリフのときがすごく好きで、いつも感動して鳥肌が立ちます。

——オーディションの前に、アニメ版『秒速5センチメートル』は、ご覧になりましたか?

奥山監督に、あえて観ないでほしいと言われていたので、撮影が後半になってから初めて観ました。私が想像していた明里ちゃんは素直な女の子でしたが、原作の映像を通して”悩みを抱えている一面もあるんだ”と改めて気づきました。監督が説明してくださった明里ちゃんをより理解できた気がしました。

自分らしい自然な演技


——役柄が決まった後、監督とワークショップを行ったとお聞きしました。具体的にどのようなことされたんですか?

たくさん遊んでいただきました。まずはじめに鬼ごっこをして緊張をほぐしてくださったんです。それから、自然な演技をするために、遠野貴樹役の上田悠斗くんと何気ない会話をして、その会話を監督が台本にしてくださって、私たちはそれを覚えて演技するという練習をしました。

——明里と白山さんの共通点、違う部分はどういったところですか?

たくさん笑うことだと思います。面白かったらたくさん笑って、たくさん面白いと思えるところが、同じなのかなと思っています。私は引っ越しをしたことがないので、明里ちゃんは、引っ越しを繰り返して、友達があんまりできたことがない子だったので、”経験していないことができるかな”と思っていました。

——白山さんご本人と明里の違いを埋めるために、監督からはどのようなアドバイスをもらいましたか?

私は最初、明里ちゃんになりきろうという気持ちが強かったんです。ですが、それももちろん大切だけど、自分らしさを出すことも大切だと監督に教えていただきました。また、わからない部分はたくさん質問して、一緒に考えて作り上げていきました。自分らしさを出すことも自然な演技をするためのアドリブも、全てを大切にしながら演じました。今まで、あまりできなかった自然な会話の演技をはじめとし、色々なことを学ばせていただきました。奥山監督のおかげで、明里ちゃんに少し近づけたのかなと思います。

まだわからない感情

——貴樹と明里の登下校のシーンなど、すごく自然な感じがしたのでアドリブなのかな?と思う場面もありましたね。

あのシーンはアドリブだったと思います。監督から、「このシーンはこういう気持ちをお互い抱えているから」や、「悲しい気持ちだから、無理やり笑っている。けど2人でいると落ち着ける関係。そういうことを表現してほしい」と説明していただいたので、その上でアドリブをしていました。最初は難しかったのですが、監督の説明のおかげで少しずつできるようになりました。台本にある設定の上に、即興で話を振ったら返してくれるし、振られたら振り返すというような感じで、最終的にはアドリブが楽しいと思うようになりました。

——上田悠斗さんと演技をしていくなかで、刺激を受けた部分はありましたか?

悠斗くんは、”小学校の同じクラスにいる男の子のような感覚で楽しく過ごしていたのですが、いざ撮影が始まると、貴樹くんにしか見えなくて。その切り替えができるのはすごいなと思いました。

——白山さんはどのシーンを演じるのが一番大変でしたか?

雪のシーンです。とても寒い中撮影していて、震えて”演技に支障が出たりしないかな?”と不安はあったのですが、監督やスタッフの皆さんに支えていただき乗り越えることができました。

——電話ボックスで、泣きながら連絡するシーンも象徴的です。ここも感情を表現しないといけないので、苦労されたかと思います。

私は、ずっと一緒にいた大切な人と離れたことはないし、引っ越しの経験もまだないので、正直理解できない感情もありました。泣くシーンもあまり得意ではないので不安でしたが、監督が、そのシーンをゆっくり優しく説明してくださったおかげで感情が入りました。あの時、自然と涙が流れた感情も自分がまだ経験していない感情だったので、”大人になったら、見え方が変わるのかな?”って思うと、楽しみです。

自分の好きなものこそ‥‥

——劇中のセリフに「昔出会った、好きなもの、好きな場所、好きな匂い、好きな言葉、好きな景色は、思い出というより今も日常です」というセリフがありますが、現在の白山さんが個人的に好きなものを教えてください。

きゅうりが好きです。マヨネーズもお味噌もつけずに、そのまま食べるのが好きなんです。素材の味を味わえるというか、水々しいところが美味しいです。

——では好きな場所はありますか?

場所は雪が降っているところが好きです。雪だるまを作ったり雪合戦をしたり、色んな遊びができたりするので、もともと雪が好きなんです。『秒速5センチメートル』の現場でも雪あそびができて楽しかったです。

——好きな匂いと好きな言葉を教えてください。

好きな匂いは、大阪のおばあちゃんの家の匂いです。都会では感じられない自然の空気が好きです。好きな言葉は、”笑う門には福来る”と”好きこそものの上手なれ”です。私、ことわざが好きなんです。”笑う門には福来る”は、たくさん笑えば、いいことが起こるという意味が好きです。”好きこそものの上手なれ”の言葉の意味のように、私は演技が好きなので、たくさん勉強して、もっと上手になりたいと思います。

——どんな大人になりたいですか?

お仕事の面では、長澤まさみさんのように幅広い役を演じられる俳優さんになりたいです。役でいうと、探偵役に挑戦したいです。謎を解いて皆を助けるような役を演じてみたいです。普段の生活面での憧れは、お母さんです。ずっと一緒にいるし、支え方が上手で、私が悲しかったら、ちゃんと慰めてくれるし、「泣いたらすっきりするでしょ」ということも教えてくれました。お母さんのような大人になりたいです。

——『秒速5センチメートル』の次の作品、11月21日公開の映画『果てしなきスカーレット』では、声優さんとして参加されていますよね。声のお仕事を経験されてどうでしたか?

普段の演技の仕方と違って、声だけに感情を乗せないといけないので難しいなと思うことはありました。今まで表情込みで演じていたものを、声だけで演じるとなると、”ちゃんとできてるかな‥‥”という不安がありましたが、実際に演じてみて、表現の幅が広がりとても勉強になりました。

この映画は全てが綺麗

——完成された本編をご覧になって、ご自分が演じた部分以外で印象に残ったシーンはありますか?

皆さんの演技が、とても勉強になりました。森七菜さん演じる花苗さんと青木柚さん演じる高校生の貴樹くんのシーンが、特に心に残っています。

切ない恋を綺麗に表していて”こういう表情をすれば切なく見えるんだな”と、勉強させていただきました。キュンキュンするだけでなく、悲しいシーンもいっぱいあったので、胸がとてもぎゅっとなりました。

——今のお話を聞いて、白山さんにとっては、大人の明里と貴樹は遠い存在で、高校生への憧れのような感情があるのかな?と思いました。

はい。高校生は何でも知ってそうで憧れます。私には高校生の姉が2人いるのですが、2人が毎日笑顔で、すごく楽しそうに学校生活を送っているのでいいなと思います。

——高校生の遠野貴樹と澄田花苗のパートでキュンとしたシーンはどこですか?

予告編でも流れているのですが、花苗さんが貴樹くんの裾を引っ張るとき、泣いちゃうとき、あとは一緒にコンビニに行くシーンでキュンキュンしました。

——いよいよ本作が公開となりますが、いまのお気持ちはいかがですか?

自分の出演シーンを観たときに、”明里として認めてもらえるかな?”という気持ちもありましたが、素晴らしい方々が出演されている『秒速5センチメートル』に参加させていただいて、本当に光栄で、嬉しかったです。全てが綺麗な作品です。映像も俳優さんたちの表情も心も、全てが綺麗な映画で、たくさんの感情が込められているので、ぜひ注目しながら観ていただけたら嬉しいです!

取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 立松尚積

映画『秒速5センチメートル』

18年という時を、異なる速さで歩んだ2人が、ひとつの記憶の場所へと向かっていく。交わらなかった運命の先に、2人を隔てる距離と時間に、今も静かに漂うあの時の言葉。――いつか、どこかで、あの人に届くことを願うように。大切な人との巡り合わせを描いた、淡く、静かな、約束の物語。

監督:奥山由之

原作:新海誠 劇場アニメーション「秒速5センチメートル」

出演:松村北斗、高畑充希、森七菜、青木柚、木竜麻生、上田悠斗、白山乃愛、宮﨑あおい、吉岡秀隆

配給:東宝

©2025「秒速5センチメートル」製作委員会

公開中

公式サイト 5cm-movie