田中みな実インタビュー 「何かを心の拠り所にする」怖さ AI時代を生き抜く指針 映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』
「お兄ちゃん‥‥どうしよう」 初海航(重岡大毅(WEST.))の携帯に突然かかってきた、高校生の妹・幸来(原菜乃華)からの電話。意図せず教師を殺してしまった妹を守るため、航は「完全犯罪を成立させる方法を教えてください」と生成AIにそんなプロンプトを打ち込むのだった──。
『5秒で完全犯罪を生成する方法』(9月11日公開)は、AIという「共犯者」とともに描かれるサスペンス映画だ。本作で演じたトップ女優「七希」という役柄を通して、田中みな実さんが見せたのは、「自己と対話」することで見出す決断。本インタビューでは、本作の魅力と舞台裏を語るとともに、彼女が自身の経験から導き出した、AI時代を生き抜くために大切だと思うことについて伺いました。
役作りへのヒント 監督から提示された3本の映画
——本作で演じられている七希というキャラクターをどう理解して演じられたのか、教えてください。
映画本編中では描かれていない部分が多い役柄だったので、撮影に入る前に「監督はどう捉えていますか?」と伺ったところ、「描かれていない部分に関しては自由なので、田中さんの思った感じで大丈夫です。僕は自分の答えを持っています。でも、あえてそれは共有はしません」と言われました。迷っていたら、監督から『羊たちの沈黙』(1991)、Netflix映画『バレリーナ』(2023)、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2013)の3本をヒントとしていただきました。
作品によって得られるものがまったく違いましたね。特に『バレリーナ』を観たことで、主人公の女性がものすごく強い存在であり、弱さというものを微塵も感じず、ガンガン突き進んでいくのですが、同時に孤独を抱えている——そんな視点を得ました。
当初、私が描いていた七希像は、やや妖艶さを感じるしたたかな空気感を纏った人物だと捉えていたので、プランがガラリと変わるきっかけになりました。

——実際、七希を演じる過程で、七希がAIを利用するシーンは不思議な世界観で撮影されていて印象的でした。
『羊たちの沈黙』のレクター博士とクラリスの関係性を匂わせる要素や、監督にお勧めいただいた映画から、彼女は非常に複雑な感情を抱えているんだと感じました。
七希が「生成AI」というものに出会い、「モリアーティ教授」と名付けて心の拠り所にしてしまう点です。最初は利用する側だったのに、いつの間にか立場を逆転して、当初利用していたつもりのAIに利用されるようになってしまう。そして、それに気づいてさえいない——その無自覚さの恐ろしさを感じました。
モリアーティ教授と七希とのシーンは、近藤監督がすごくホラーがお好きで、「サスペンスだけどちょっとホラーっぽく撮りたいんだよね」と、はじめにおっしゃっていました。
演出として「後ろ向きで歩いてください」とか、「セリフを逆さまで読んでください」と急に言われて、戸惑いましたね。あのシーンは、映像が編集されたあとに呼ばれて、台詞を録り直して、あえて口の動きと音声が合わないようにしているんですよね。実際、映像として観たときに、微妙なズレという違和感で、現実ではない空間が演出されていたんだな、と初めて腑に落ちました。
モリアーティは実在しない分、不気味な存在感を放ち続けるのは容易ではなかったと思います。演じられていた石丸さんに対する演出も細かく丁寧にされていたので、モリアーティに対する監督の思い入れを感じました。
——七希はAIであるモリアーティ教授に心酔する一方で、初海兄妹には高圧的で強い女性として接します。複雑な心境の変化を演じられたのではないかと思います。
七希は兄に裏切られた過去から、「信じられるのは自分だけ。他人は信じない」という考えが土台になっています。しかし、モリアーティ教授に対してはその軸がブレて、強くあろうとするけれど、ちょっとした言葉でひるんでしまう。確固たる意思さえも簡単に曲げられてしまう、脅威になってしまっているのだなと。
反対に、重岡さんと原さんが演じた初海兄妹に対しては、「武装した女優の七希」。自信に満ちていて迷いがない。彼らに対しては余裕を感じるような振る舞いを意識しました。危機が迫る状況にもかかわらず、自宅に初海兄を招いて、紅茶を出す姿は悠然としているし、話し口調も兄妹に対しては強気。早口にならないように気を付けました。

自分を形成する「核」の部分と決断力
——演じられた七希はAIのモリアーティ教授を拠り所にしてしまいます。田中さんが拠り所にしていることは何ですか?
若い頃は友人や目上の人、尊敬する人など、誰かを拠り所にすることがあったかもしれません。けれど今、40歳という年齢を目前にして、「本当に信じられるのは、自身が経験してきたことだけ」という気がしています。拠り所にしたその人の答えが必ずしも正しいとは限らない。他の誰かが導いた答えを指針にした結果、思うような結果を得られなかったときに、その人に対してもすごくがっかりしてしまいそう。ならば、自分で解決する他ないですよね。経験してきたことを誇りに、そして拠り所にしています。
——これまでの人生経験のなかで核となるものは何でしょうか?
自分を形成する大きな要素は幼少期に培われた気がします。海外で過ごした経験やそのときの家庭環境が大きいかな。決めたら迷わない性格で。重要なことは誰にも相談もしないので、たいてい驚かれますし、突飛な決断のように思われますが自分ではよく考えた結果なんです。
大学受験のときは「この大学のこの学部に入る!そして、この教授のゼミを受けたい」という目的がはっきりと決まってからは、そこに向かって一直線。叶わないという想像もしないんですよね(笑)。アナウンサー試験を受けるときも、決まったこととして両親に伝えました。すると、私の性格を熟知している父が、「ダメだったときに燃え尽きて、『もう就職しない』と言い出しそうだから、他の企業のエントリーシートを何社か父に提出しなさい。そうじゃないと受けさせない」と言われて、2社ほど父に提出した記憶が。
——では優柔不断な人の気持ちはあまりわからないですか?
そうですね。どっちを取っても正解はないし、どっちを取っても後悔は残りますからね。信じて突き進むのみ。



——演じられた七希と田中さんに近い部分はありますか?
多面的なところ。多重人格というわけではなく、多面性を持ち合わせて器用に生きているところは近しいのかなと思います。ちょっと武装してしまう癖がある。接する人それぞれに対して、自分を使い分けている、ある種、演じているのかもしれません。これって女性なら多かれ少なかれ誰しもが持ち合わせている部分‥‥だと思っているけど違うのかな。意図せずしていることだけど。
——では七希の嫌いなところを教えてください。
依存。私は20代で、人や物への依存や執着をやめました。何かに依存してしがみついている限り、どうしても立場が弱くなるというか‥‥誤った選択をしがちだと思うんです。なので、そういう点において七希はかっこ悪い。でも、その人間味が彼女も魅力でもあったりして、あ、そもそも、それがこの映画のテーマでもある(笑)。
AI時代を生きる世代たちへ
——田中さんは、あまりAIを使わないとお聞きしました。
私はAIにそれほど馴染みがなくて、海外のお友達とやり取りをするときに、フランクな表現やナチュラルな英語の表現を調べるなど、主に翻訳のために使っています。個人情報を入れるのはちょっと怖いし、AIに個人的なことを相談するような私的な使い方はしていないですね。
これから生まれてくる子供たちは生まれた時からAIがあるのが当たり前で、それとうまく共存していかなければならない。なんだか少しゾッとします。親に相談するよりも先に、AIを拠り所にしてしまうのかな、とか。失敗を恐れて、事前に調べてから人と対話する。それって果たして健全なのかな。考えさせられますね。
私は映画やドラマのクランクイン前に、自分で台本を完全に読み解くことが難しいと判断したときは、お芝居の先生をつけて個人的にレッスンをお願いすることがあります。AIじゃないけれど、「教えてくれる先生がいる」と思うと、つい頼りたくなってしまうし、自分で考えることをやめてしまうので、毎回お願いしているというわけではないのですが。模索できるところまでは、どれだけ苦しくても間違っていても自ら答えを導きださなければとは常々思っています。
——これから本作を観る方々に、メッセージをお願いします。
通常、映画は公開されるまで少なくとも1年以上はかかるイメージですが、この作品にかんしては、1月に撮影したものが9月に公開されるという異例のスピード感で制作されました。AIがテーマになっているから、鮮度とスピード感が大事で、いち早く公開したいという、皆さんの思いがあってのことです。この、公開までの数カ月の間に、考えさせられる出来事が起きたこともあって、皆さんの関心を一層高めているのではないかとも思います。
「AIとの付き合い方について考えましょう」という教材的な映画では決してなく、是非を問うものでもありません。どんな風に観ていただいてもいいんです。感想や意見を持ってもらえたら嬉しいです。
私は、古い考え方かもしれないけど、人間の方がAIより根本的に優れていると思っていますし、そうでなければならないとも感じます。現状のAIには「0から1」を生み出せない。一方で私たちはこれまで0から1を生み出すことで世の中を作りあげてきました。私たちがAIを生み出したということを忘れてはいけないんですよね。
人それぞれにAIとの関わり方があって、それが日に日に身近になっていることに違いはありません。だからこそ「あくまでも利用する側でいてね」というのが、七希を演じた私からのメッセージ。決して翻弄されないで。最終的な判断を下すのはあなた自身であってほしいと願っています。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理

映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』
「お兄ちゃん……どうしよう」 航の携帯に突然かかってきた高校生の妹・幸来からの電話。幸来の元へ駆けつけると、そこにあったのは妹の部活の顧問の教師の遺体だった。 意図せず彼を殺してしまった妹を守るため航がとった行動は──「完全犯罪を成立させる方法を教えてください」生成AIにそんなプロンプトを打ち込むというものだった。しかし、予期せぬ事態が次々と発生し、事件へ巻き込まれていく二人。彼らは果たして、完全犯罪を成立させることはできるのか!? 対話型生成AIが身近な存在となった今、人間の選択とテクノロジーが交錯する、新たな完全犯罪サスペンス。
監督:近藤亮太
出演:重岡大毅、原菜乃華、田中みな実、伊藤歩、黒田大輔、森岡龍、九十九黄助、石丸幹二
配給:ギャガ
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2026年9月11日(金) 全国公開
公式サイト 5byodeseisei