Oct 12, 2019 column

ビートルズ愛が詰まった『イエスタデイ』で響く名曲、着想を得た逸話

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昏睡状態から目が覚めたら、そこはビートルズを誰も知らない世界だった! 奇想天外としか言いようがない、そんな設定に基づくユーモラスな人間ドラマ『イエスタデイ』が、いよいよ登場。『トレインスポッティング』(96年)のダニー・ボイルが監督、『ノッティングヒルの恋人』(99年)のリチャード・カーティスが脚本という、イギリス映画の優れた才能がタッグを組み、ファンタジーだがリアルな物語を生み出した。愛すべき、この作品の魅力に迫る。

名曲とともに綴るロマンチックコメディ

ザ・ビートルズは言うまでもなく、1960年代にイギリス、リバプールから登場するや、ポピュラーミュージックの歴史を世界レベルで変えてしまった不世出のアーティスト。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人が響かせた音は、解散から約半世紀を経たいまも世代を超えて愛され、どこかで確実に鳴り続けている、そんな揺るがしがたい存在だ。しかし、映画の中ならばそれらを“なかったこと”にできる。そんなアイデアから生まれたのが『イエスタデイ』だ。

主人公のジャックは売れないシンガーソングライター。彼の音楽に懸けた夢をサポートし続けてマネージャー役を務めている、幼なじみの学校教師エリーとともにドサ回りの演奏の日々。いい加減に夢を諦めようと思った時、ジャックは世界的な大停電が招いた交通事故により、昏睡状態に。そして目覚めると、そこは誰もビートルズを知らない世界だった。ネットで検索しても、ビートルズは出てこない。自分のレコードコレクションからもビートルズが消えている。音楽談義を重ねたエリーや友人たちも、そんなバンドは知らないという。そこでジャックは、覚えているビートルズの曲を自分の曲として発表。それはたちまち評判となり、彼は世界の注目を集める。人気シンガーソングライター、エド・シーランにも認められ、レコードデビューも決定。しかし、成功を掴んだに思えたジャックは、同時に大切なものを失いそうになってしまう…。以上が、映画の大まかなストーリーだ。ちなみにエド・シーランは本人役で出演している。

ダニー・ボイル監督というとエッジの効いた『トレインスポッティング』のような作品を連想するファンの方もいるかもしれない。が、今回はアップテンポの演出はそのままに、『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)のような人間味あふれるドラマの方向に振れている。そもそも本作は『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)をはじめ、良質のロマンチックコメディを多数輩出してきたイギリスの製作会社ワーキング・タイトルの作品。ビートルズはとっかかりに過ぎず、ビートルズに詳しくない人でも楽しめる。というのも、本作はジャックとエリーの恋物語に主軸を置いているのだから。彼らの関係の変化にハラハラしつつ、笑い、また共感する、それが『イエスタデイ』の本質である。

脚本のリチャード・カーティスは『ラブ・アクチュアリー』(03年)、『パイレーツ・ロック』(09年)、『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(13年)などの監督作のほか、『Mr.ビーン』(90~95年)、『フォー・ウェディング』(94年)、『ノッティングヒルの恋人』(99年)の脚本で辣腕を振るってきたヒューマンコメディの名手。ボイルが2012年のロンドンオリンピック開会式の演出を担当した際、その制作に参加して以来の仲だった。それでも当初カーティスは、その尖った作風から、ボイルが監督を務めるとは思っていなかったという。しかし、脚本を読んだボイルはそのクオリティの高さに驚き、監督を引き受けることになった。