短くも美しく萌えるミューズたち
キャリア初期のダイアン・キートン、ミア・ファローとまではいなかいものの、アレンの後期作品にもミューズの存在は確認できる。気に入った女優を続けて起用するという傾向だ。その最初の例がスカーレット・ヨハンソン。『マッチポイント』(05)でのファム・ファタール的な役回りで、監督のアレンをも虜にしたヨハンソンは、続く『タロットカード殺人事件』(06)でもヒロインを務め、アレンも俳優として出演。この時期は自作への出演が少なくなっていたアレンだが、ヨハンソンとは是が非でも一緒に演技がしたかったのかもしれない。
そのヨハンソンも出演した『それでも恋するバルセロナ』(08)でのペネロペ・クルスは、数作を間に置いて『ローマでアモーレ』(12)で再起用。最近では『マジック・イン・ムーンライト』(14)と『教授のおかしな妄想殺人』(15)でエマ・ストーンを連続起用した。クルスは『それでも恋する~』でアカデミー賞助演女優賞に輝いたし、ストーンも、アレン作品ではないが、その直後の『ラ・ラ・ランド』(16)で見事にアカデミー賞主演女優賞を受賞している。
また、起用は1回だが、『ブルージャスミン』(13)のケイト・ブランシェットもオスカーを獲得した。女優のキャリアを一段アップさせるアレンの才能は、いまだに衰え知らずであることを証明している。そして複数回、同じ女優を起用した場合、その最初の作品が傑作になることが多い。やはりアレンの女優への燃え上がる情熱が、作品の仕上がりを自然とアップさせるのだろう。その意味で最新作『カフェ・ソサエティ』での2人のヒロイン、クリステン・スチュワートとブレイク・ライブリーをみつめるカメラ側の視線は熱い。おそらくアレンは、彼女たちのどちらかを再び自作に出演させるに違いない。
分身を得た喜びが最新作にあふれる
女性たちに右往左往し、惑わされ、ちょっぴり神経質な男性は、アレンの自己投影だが、『ブロードウェイと銃弾』(95)のジョン・キューザックのように、後期の作品は、そんなキャラクターを自分の分身にふさわしい俳優に任せている。その最も成功した例が『カフェ・ソサエティ』のジェシー・アイゼンバーグだ。やや頭でっかちで、恋愛は不器用。とにかく早口で自己防衛の意見をまくしたてる。そして同じユダヤ系。アレンとアイゼンバーグは、外見こそは似ていないものの、特徴に共通点が多い。アイゼンバーグは『ローマでアモーレ』(12)にも出演したが、このときの役はもろに、かつてウディ・アレンが自演していたキャラクターだった。『ローマ~』にはアレン自身も出演しており、まるで自分の子供や孫に得意芸を伝授しているようで微笑ましかった。それに比べると『カフェ・ソサエティ』でのアイゼンバーグの役どころは、アレン本人とはややかけ離れている。それでも2人の女性の間で心が揺れ動く男の切なさを、監督の意図をまっすぐに表現したアイゼンバーグに、アレンの幻影が見てとれるのだ。