May 02, 2017 column

最新作『カフェ・ソサエティ』誕生までのウディ・アレン作品史【前編】2大ミューズとゴシップまみれの初期~中期

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知られざるウディ原点作品は、最新作にも影響を

 

そんな前期の2大ミューズが、同時に起用された作品がある。『ラジオ・デイズ』(87)だ。これはアレンの自伝要素が濃厚な作品で、舞台は第二次大戦が開戦する時代のニューヨーク。主人公の少年の視線で描かれる日常のドラマなのだが、“時代へのノスタルジー”“アレン映画らしいナレーションの効果”“ショービジネスの裏側”“2人のミューズ”、そして“ラストシーンの舞台”など、多くの要素が最新作『カフェ・ソサエティ』とリンクする。『アニー・ホール』(77)や『カイロの紫のバラ』(85)、『ハンナとその姉妹』(86)などが、一般的にウディ・アレン作品の傑作とされているが、『ラジオ・デイズ』こそ、アレンの原点作品ではないだろうか。彼自身、『カフェ・ソサエティ』で、『ラジオ・デイズ』へのセルフオマージュを与えたという気がしてならない。

 

『カフェ・ソサエティ』(16) © 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

『カフェ・ソサエティ』(16)
© 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 

また、キャリア前期でもうひとつ、気になる点がある。それはたとえば『アニー・ホール』(77)の後に、イングマール・ベルイマン作品の手法を模倣した、超シリアスなドラマ『インテリア』(78)を監督したこと。その後も『セプテンバー』(87)、『私の中のもうひとりの私』(89)など、観客の予想を裏切るかのように、まったく笑いの要素のない心理劇を作っていた。もちろん映画作家なので、自身の可能性を広げ、嗜好を模索する時期があるのは当然。そしてこれらの心理劇も高いレベルの作品に仕上げていたのには驚かされる。しかしキャリアの後期になると、こうしたシリアス系は封印されていく。ストーリーはバラエティに富んでいるが、軽妙な心地よさがほとんどすべての作品に漂うこととなる。私生活でも安定した愛を見つけたウディ・アレンは、唯一無二の映画作家として自分の方向性を確立したのだろう。

 

『ブロードウェイと銃弾』(94) (C) 1994 Magnolia Productions, Inc. Sweetland Films, B.V. All Rights Reserved.

『ブロードウェイと銃弾』(94)
(C) 1994 Magnolia Productions, Inc. Sweetland Films, B.V. All Rights Reserved.

 

その分岐点となった作品が、1994年の『ブロードウェイと銃弾』。舞台劇の脚本に、門外漢のギャングが口を出し、意外な傑作になってしまうという物語は、シニカル味とコメディ要素で、まさにアレン作品の真骨頂。ショービジネスの裏を描く点でも、前述の『ラジオ・デイズ』(87)から最新作『カフェ・ソサエティ』(16)の道のりに通じている。この『ブロードウェイと銃弾』で、やや頭でっかちな劇作家の主人公を演じるのは、ジョン・キューザック。なかなかにハマリ役ではあるが、本来はアレンにぴったりの役どころで、ここまでの作品を振り返ると彼自身が演じてもよさそうだった。自分でもできる役を、あえて他の俳優に任せる。このパターンは『ブロードウェイと銃弾』以降、増えていく。キャリア後期は、“監督ウディ・アレン”としてのポジションを堅固にしていくのだ。コラム後編は近日配信!

文 / 斉藤博昭

 

 

作品情報

 

8

『カフェ・ソサエティ』

<STORY>
もっと刺激的で、胸のときめく人生を送りたい。そんな願望を抱いたニューヨークの平凡な青年ボビーはハリウッドを訪れる。1930年代、この華やかな映画の都には、全米から人々が集まり、熱気に満ちていた。映画業界の大物エージェントである叔父のもとで働き始めたボビーは、彼の秘書ヴェロニカ(“ヴォニー”)の美しさに心を奪われる。ヴォニーと親密になったボビーは、彼女との結婚を思い描くが、彼はまったく気づいていなかった。ヴォニーには密かに交際中の別の男性がいたことに……。

映画『カフェ・ソサエティ』
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ クリステン・スチュワート ブレイク・ライブリー スティーヴ・カレル パーカー・ポージー
配給:ロングライド
2017年5月5日(金・祝)公開
© 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
公式サイト:movie-cafesociety.com

 

アレン映画の必見作

 

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『アニー・ホール』

監督・脚本:ウディ・アレン
脚本:マーシャル・ブリックマン
出演:ウディ・アレン ダイアン・キートン トニー・ロバーツ
Blu-Ray/1905円(税別) DVD/1419円(税別)発売中
発売元・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

 

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『マンハッタン殺人ミステリー』

監督・脚本:ウディ・アレン
脚本:マーシャル・ブリックマン
出演:ウディ・アレン ダイアン・キートン アラン・アルダ アンジェリカ・ヒューストン
DVD/1400円(税別)発売中
発売元・販売元:ハピネット(ピーエム)
(C)1993 TRISTAR PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 

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『カイロの紫のバラ』

監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ミア・ファロー、ジェフ・ダニエルズ、ダニー・アイエロ、ダイアン・ウィースト、ヴァン・ジョンソン、カレン・エイカーズ、カミーユ・サヴィオラ
DVD/1419円(税別)発売中
発売元・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2012 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

 

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『ブロードウェイと銃弾 ―デジタル・レストア・バージョン―』

監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ジョン・キューザック、ダイアン・ウィースト、ジェニファー・ティリー、チャズ・パルメンテリ、メアリー=ルイーズ・パーカー、トレイシー・ウルマン、ジャック・ウォーデン
Blu-ray/2500円(税別) DVD/1800円(税別)発売中
発売元・販売元:KADOKAWA
(C) 1994 Magnolia Productions, Inc. Sweetland Films, B.V. All Rights Reserved.

 

関連書籍はこちら

 

「世界の喜劇人」小林信彦 (著)/新潮社/新潮文庫

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