ウディ・アレン監督の最新作『カフェ・ソサエティ』が5月5日に公開される。現在、81歳のアレンだが、その製作意欲は衰え知らず!『カフェ・ソサエティ』に“枯れた”印象は皆無で、むしろ瑞々しい演出が冴えわたり、若い時代の作品も彷彿とさせる仕上がりになっているのだ。これはある種の奇跡と言えるかもしれない。いま改めて、『カフェ・ソサエティ』までの、アレン作品の傾向と道のりを振り返ってみたい。
ウディ・アレン、81歳。その生涯の作品に、ほぼ貫かれているのは、“コメディ”“愛するミューズ”“ジャズへの愛”“自身を投影した自虐的主人公”だろう。作品の“ミューズ”に関しては、私生活でのスキャンダルが絡んでしまったケースもある。そして作品を振り返ると、ミューズへのこだわりが強過ぎた前期と、ある程度、冷静に距離を置いた後期で、明らかに作品への向き合い方が分かれているのだ。
2大ミューズとともに、コメディ映画を新たな境地へ
1960年代にスタンダップコメディアンとして活躍したアレンは、映画界に進出。当然ながらコメディ作品で監督としてのキャリアを始め、監督7作目の『アニー・ホール』(77)でアカデミー賞の作品賞・監督賞など4部門受賞という栄誉に輝く。死にとりつかれたコメディアンという役どころをアレン本人が演じ、このキャラクターは、その後のアレン作品の“基礎”になったと言っていい。さらに、どうでもいい会話が延々と続く面白さや、長回しのカメラ、笑いと皮肉、悲しみを織りまぜた作風など、アレン作品の特色が凝縮された点で、いま観ても、全作を振り返っても、代表作としての輝きを失っていないところがスゴい。
この『アニー・ホール』(77)ほか7作のアレン監督作品に出演したのが、ダイアン・キートン。私生活でもパートナーとなり、彼の最初の“ミューズ”だが、後の恋人、ミア・ファローとの関係が悪化した際に、『マンハッタン殺人ミステリー』(93)でファローが演じるはずだったヒロインをキートンが代役として受け入れてくれるなど、彼女からアレンへの敬意は、その後、失われることはなかった(そして『マンハッタン~』は、アレン前期を総括するような大傑作となった!)。アレンとキートンのコンビは、映画史に残る名カップルと断言したい。
ダイアン・キートンに代わって、アレン作品のミューズの地位に就いたのが、ミア・ファロー。1982年の『サマー・ナイト』に始まり、1992年の『夫たち、妻たち』まで、なんと13作に出演。明るさが持ち味だったキートンに比べ、ファローはエキセントリックな魅力で、『カイロの紫のバラ』(85)、『ハンナとその姉妹』(86)といったアレン作品に溶け込んでいった。
当然、2人は私生活でも結ばれるわけだが、アレンの人生で最もスキャンダルとして騒がれた“あの事件”が発生する。ファローとの間に養子として迎え入れたスン・イー(当時21歳)と男女の仲になってしまうのだ。血はつながっていないとはいえ、年齢の離れた父と娘がデキてしまったことで、一大ゴシップに発展。激怒したミア・ファローによって、ドロ沼の裁判劇に発展することになる。
その後、1997年にアレンとスン・イーは正式に結婚。現在も結婚生活は続いているこということは、2人の愛は真剣だったようだ。アレンがスン・イーを自作に出演させるなんて暴挙に出なかったのは正解だと言える。
監督作における“ミューズ”の存在が一旦、途切れるという点で、前述したように『マンハッタン殺人ミステリー』(93)は、アレン作品前期のラストに位置づけられる。