ザ・ガール・イン・ザ・バブル
幼い頃のグリンダ (スカーレット・スピアーズ) が、クラスメイトと思われる友人たちの前で、ステッキを片手に魔法を披露するシーンがある。当然のようにグリンダは魔法が使えない。そのとき窓の外に虹がかかる (『オズの魔法使』の名曲「虹の彼方に」へのオマージュ)。クラスメイトたちはグリンダの魔法に喜ぶが、彼女はひどく落ち込んでしまう。母親がグリンダを励ます。みんながあなたを愛している、それがあなたに必要なすべてだと。グリンダはステッキの先端に装飾された宝石に映っている自分を見る。そこには落ち込んだ自分の顔が映っている。グリンダは笑顔を作る。みんなに愛される才能のあるグリンダは、あのときの宝石=鏡の世界に刻印された笑顔のイメージを、自分の外向けのイメージとする。それが“善の魔女”のイメージとなり、政治的に利用されていく。グリンダの母親役をアリス・ファーンが演じている。アリス・ファーンがウエストエンド版「ウィキッド」でエルファバ役を演じた舞台俳優であることは、グリンダとエルファバの姉妹のような関係、鏡のような関係であることへの言及になっている。

しかし宝石に映ったグリンダの悲しい顔は、笑顔で上書きされたわけではない。少女時代はグリンダの瞳の奥で生き続けている。怒れる民衆によるエルファバ征伐の決起集会を目の当たりにしたグリンダは、ショックを受け、邸宅の扉を閉じる。瞳を閉じる。1930年代のハリウッド映画のセットがイメージされたという優雅なインテリア、ピンク色を基調とする邸宅内で、グリンダは鏡に映る悲しい顔をした自分を見つめる。グリンダは「ザ・ガール・イン・ザ・バブル」を歌う。鏡の中の自分に、“彼女は誰なのか?”と問いかける。グリンダが次々と鏡から鏡へと移っていくトリッキーな撮影は、それ自体が宝石のように美しい。グリンダは鏡の中で生き続けている少女を発見する。グリンダが生まれて初めて“魔法”を獲得する瞬間が、スクリーンに刻印されていく。贋物のバブルの中で民衆に愛され続けることをグリンダは拒否する。王冠を外す。権力を手放す。エルファバと同じ黒い衣装で、親友を助けに向かう。
『ウィキッド 永遠の約束』は、手に入れた力を手放す勇気に、この世界を前進させる可能性を見出す。エルファバとグリンダは、魔法学校時代にボールルームで踊った沈黙のダンスを忘れていない。2人の動きが合わせ鏡のように同期され、抱擁に至った、あの美しい瞬間を。異なることは悪ではないという相互理解。大人になることとは、無力だった子供時代を忘れることではなく、あの頃の無力さの影や、たしかに感じることができた魔法のような結びつきと共に歩み続けることなのだろう。エルファバとグリンダの少女時代は、鏡の中で生き続けていく。
文 / 宮代大嗣

“悪い魔女”として悪名を着せられ民衆の敵となったエルファバは、オズの森に身を潜めながら、言葉を奪われた動物たちの自由のために闘い続け、“偉大なるオズの魔法使い”の噓にまみれた正体を世に暴こうとしていた。一方のグリンダは“善い魔女”としてオズの国にとって希望の象徴となり、名声と人気の恩恵を満喫する日々。しかし、その心にはエルファバとの決別が影を落としていた。正反対の道へと駆り立てられたふたりは、かけがえのないかつての友に、もう一度向き合わなければいけない。自らを、そしてオズという世界そのものを、永遠に変えるために。
監督:ジョン・M・チュウ
原作:ミュージカル劇「ウィキッド」(作詞・作曲:スティーヴン・シュワルツ 脚本:ウィニー・ホルツマン) /グレゴリー・マグワイアの原作小説に基づく
出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、イーサン・スレイター、ボーウェン・ヤン、マリッサ・ボーディ、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム
配給:東宝東和
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2026年3月6日(金) 全国ロードショー
公式サイト https://wicked-movie.jp/