なぜフィリピンで人気を博したか?
「超電磁マシーン ボルテスV」が、いくら日本の伝説的なロボットアニメのひとつだといえども、世間一般的に認知度が低いのは事実。しかし、フィリピンでは認知率は94%という驚異的な数字を誇る。親子三代で知られ、小林亜星作曲のアニメ主題歌「ボルテスVの歌」は日本語のまま歌われ、第二の国歌と言われるまで浸透している。
この度、劇場公開された『ボルテスV レガシー』のフィリピン版のほか、2023年に実写テレビシリーズが原作アニメの2倍以上となる全90話、約2700分もの超大作で制作されている。月曜〜金曜の週5日、20時からの30分間というゴールデンタイムに放送され、同時間帯トップ、最高視聴率58%を叩き出したそうだ。
これほどまでに「ボルテスV」が、フィリピンで熱狂的な支持を受けているのはなぜか?
それは1970年代後半のフィリピンという時代背景に起因する。今でこそ超絶人気アニメだが「超電磁マシーン ボルテスV」は、フィリピンで唯一放送禁止になったアニメなのだ。
「ボルテスV」がフィリピンで放送開始された1978年。当時、テレビアニメといえば「トムとジェリー」といったアメリカ作品しかなかったなかで、日本のロボットアニメの登場は衝撃的だった。瞬く間に人気は広がり、街には関連グッズが溢れ、子どもたちはステッカーを集めTシャツを着て、ボルテスの歌を日本語で歌った。だが、最後の4話を残したところで政府が放送中止を命令を下す。
理由は諸説ある。
時はマルコス政権。フィリピンで独裁政治が行われていた時代だ。
「帝国に対する抗戦」をテーマとする内容が政府に不都合だった説、放送局が当時唯一の非政府系放送局だったため攻撃を受けたという説もある。
政治的判断によりボルテスが打ち切られたとする意見に対し、ボルテスVの天空剣が侍の刀の象徴であり「旧日本軍の賛美や戦時中の行いを正当化したもの」、作品を皮切りに「日本企業の台頭を警戒せよ」という第二次世界大戦後の反日感情に由来する声。単純に「内容が暴力的であり、道徳的でない」という親世代の抗議に応えた説など様々な観点がある。
この事件を日本では一部週刊誌が取り上げ、1991年9月30日放送された、NHKスペシャル・ドキュメンタリーアジア発、第1回「フィリピン『日本製アニメに何を見たか』-ボルテスファイブを知っていますか?-」では、現地の人からみた日本像というテーマで詳報されている。
そして1999年「ボルテスV」の再放送が始まるとリバイバルブームが巻き起こる。その後も多数の吹替版が制作され、2017年には5回目となる吹替版が放送。このように再放送が繰り返されることで「ボルテスV」はフィリピンで世代を超えた国民的アニメとなった。