Nov 05, 2020 column

20:音楽業界大変革の波。パッケージビジネスからファンビジネスへの転換

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業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。

19「 音楽業界のビジネス構造とその変化の選択」はこちら

日本の音楽業界の主力であったパッケージビジネスが1998年頃をピークに、特に最近は劇的に落ち込んでおり音楽業界は変化を求められています。もはやCDで音楽を聴く人は余程の音楽好きなのかもしれません。海外ではデジタルによる音源収入は伸び続けており、パッケージ収入を凌駕していますが、その成長により一時期停滞していたマーケットが再び大きく伸び始めています。

そしてデジタルの売り上げが上がる中、米国ではレコードの売上げがCDの売上に匹敵するレベルにまで来ているようです。もはや、パッケージプロダクツは音を聞く音源というよりはノスタルジーやファッションも含めたグッズとしての価値がより大きくなり、そういう世界観では大きなジャケットのレコードの価値がCDよりも評価されることになったようです。

前述したように、日本ではサブスクやデジタル化が業界の抵抗などで導入が遅れたこともあり、このエリアは成長しているもののまだ規模が小さく、一方規模の大きかったフィジカルなパッケージ分野でのマイナスが響いているようです。2020年に発表された統計によると、日本の音楽市場は世界で2位の地位は保っているものの、マーケットの成長率としては一人負けに近いマイナス成長。2桁成長しているアメリカや中国など海外と比較すると目立って残念な状況が数年続いています。ようやく、デジタル化に業界全体としても舵を切り始めており、これからという状況にようやくなってきたところです。私がワーナーにいた2015年前後は日本の音楽業界の節目であり、ワールドワイドでは大きく遅れていましたが新しい価値観が入り始めた時期であったことがわかります。

これからのレコード会社についても書いておきましょう。大昔はライブで収益を上げられるということはほとんどなく、レコード会社が協賛してライブの運営をしていた時代もあったようですが、近年ではライブの収益性は、グッズ販売の売り上げ向上も相まって大きく改善し、事務所にとっては大きな収益源の柱となっています。音源のマーケットとは逆にここ数年大きく成長を遂げていました。

ビジネス機会が減っているレコード会社がこの収益性に目を付け、事務所に360度契約、すなわち、アーティストから発生する収益すべての権利の中から一部の売り上げをシェアしてもらう契約が一般的になってきています。ライブ収益、グッズ収益は元よりCM取得営業の窓口を行いその一部をシェアする事などが代表的な例です。

事務所についてですが、こちらは前回にも少し書きましたがネットを使ったファンベースビジネスの構築が大きいです。アーティストが情報を発信してファンを増やす所と、ファンに向けて特別なコンテンツの提供をする所、今風に言うとDXをきちんとデザインしていくことが、ファンビジネスには欠かせません。

アーティストは生ものでもあるので、ファンとの距離感をそのレベル、程度によってうまく保ち運営していくことが、ファンを広げるにしても、エンゲージメントを向上させるにしても、アーティストの負担も考えると長期にわたる収益性に直結した課題となるのです。例えば、濃いファンの中では通用するコメントが、あまり馴染みのない開かれた環境では炎上しかねないということは普通にあります。お笑いタレントがラジオとテレビとライブでの発言を使い分けているようなものかもしれません。

ライブとデジタルDXの組み合わせ、この接点をデザインする新たなファンビジネスが、今後、音楽業界のエコシステムに大きく影響を与えていくことになるでしょう。ギフティングや応援、投げ銭、会員制度など、各アーチストは固有のバリューチェーンを築いていくことになっていくのです。現在、コロナウイルスの影響で事務所の大きな柱であるライブビジネスが大打撃を受けています。そのような環境で、ファンとの関係をネット上でどうデザイン、運営していくかということがより直近の重要課題になってきているのです。

ライブの良さがあらためて見直され盛り上がってきた近年にこのコロナウイルス。今後、ニューノーマルが確立するのでしょうが、少しでも業界にいた人間にとって、ライブの興奮を忘れる事はできません。故に、ライブを単に配信するのはDX的には少し違うような気がしています。VRやARまたは5Gでも、あの感動を伝えるのは、なかなか難しいだろうなあとついつい考えてしまいます。むしろ、ネット配信にあったコンテンツの在り方、デザインがあるのではないかと考えます。

アーティストの米津玄師がゲームプラットフォームのフォートナイトのライブでワールドワイドにその存在を示したように、日本の音楽ビジネスにとっては日本のマーケットだけを見る、テレビ業界の様子をうかがうだけでなく、ワールドワイドにその市場を広げていくことへの発想の転換の良い機会でもあると思います。ファンクラブの運営、情報発信で英語が一部で使われているのが例外事例であることを考えると、まだまだやることがあるのではないでしょうか。

最後に一言。ソニーミュージックはアニメ部門のアニプレックスが、主題歌に自社アーティストを使いヒットを飛ばしています。当初はアニプレックスが作品の主題歌にアーティストのブッキングを音楽部門に頼んでいたものが今では逆なっているようです。その後アニプレックスがゲームに進出し、Fate/Grand Orderをはじめ大ヒットを飛ばし、音楽レーベルの売上げ利益を越えるほどになりました。この様に、従来の発想から新たな変化を行うことにより業績拡大を続けています。

私は現在ゲーム業界に身を置いていますが、音楽業界とのつながりを、ゲーム業界ならではの技術やビジネスモデルをつかいながらコラボをしていくということを企んでいます。音楽とゲーム、親和性がとても高いと思いませんか?

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。