ロイ・コーンが生み出した怪物
不動産王の父フレッドから帝王学を叩き込まれたトランプだが、真の師匠は父親ではなく弁護士のロイ・コーン。“現代のマキャベリ”とも称された、ニューヨークの大物フィクサーだ。彼はローゼンバーグ事件の検察官として一躍脚光を浴び、ジョセフ・マッカーシー上院議員の主任弁護士として赤狩りを推し進め、勝利のためなら手段を選ばない強引な手口で、次第に政治・経済界での影響力を強めていく。
やがてトランプの弁護士として辣腕をふるうようになったロイ・コーンは、この若者に「自分に100%従え」と強要し、人生のサバイバル術を指南し、「勝利への3つのルール」を伝授する。
1.攻撃 攻撃 攻撃
2.非を絶対に認めるな
3.勝利を主張し続けろ
ドナルド・トランプの喧嘩上等・好戦的なふるまいは、明らかにこの教えによるもの。最初は忠実なアプレンティス(見習い)だった彼は、次第に師匠を上回るカリスマ性を身につけ、コーンの想像をはるかに超えるほどのーーーいや、ひょっとしたらトランプ自身の想像をも超えるほどのーーー巨大な存在に成長していく。フランケンシュタイン伯爵が、人間の死体を繋ぎ合わせて怪物を造りだしたように、ロイ・コーンもまた自らの手で怪物を生み出してしまったのである。
映画を観終わって、まず筆者の脳内に浮かんだのは『スター・ウォーズ』だった。皇帝パルパティーンは若きジェダイのアナキン・スカイウォーカーを懐柔して、闇のシスへと引き摺り込む。やがて、オビ=ワン・ケノービとの戦いに敗れて四肢を失ったアナキンに、サイボーグ化手術を施し、ダース・ベイダーを誕生させる。トランプが腹部と腰回りのぜい肉を取り除く外科手術を受ける場面は、まるでダース・ベイダー誕生の瞬間に立ち会っているかのようだ。
長らくパルパティーンは自分の右腕としてダース・ベイダーを重用していたが、最後は彼の裏切りにあって、デス・スターの反応炉に投げ落とされてしまう。弟子の手によって師が殺されてしまう展開は(『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』でパルパティーンはあっさりと再登場するのだが)、やがて犬猿の仲に陥っていくコーンとトランプの関係を見ているかのようだ。
という訳で、すっかり筆者は「アリ・アッバシは、世界で最も有名なスペースオペラを参照しているはず!」と思い込んでいたのだが、インタビューで彼は全く別の作品を挙げていた。スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』である。