Netflixにて11月21日から全世界配信されている、アニメ「Tokyo Override」。本作は、AIが暮らしに溶け込み、都市生活の全てが自動化された100年後の東京が舞台。表向きは”理想的な社会”であるはずの街に潜む巨悪の存在を、はみ出しものの主人公たちが暴いていくSFアニメーションシリーズだ。
主人公は、孤独なティーンエイジ・ハッカーのカイ。唯一の友人からの危ない頼みごとを引き受けてしまったことで、思わぬトラブルに見舞われる。そこに、絶滅寸前とも言えるオートバイを乗りこなす、はみ出し者集団が現れる。カイと彼らは突如起きた死亡事故の調査を通じて、ユートピアと思われた東京の裏側を目撃していくことになる。
主人公のカイ役にファイルーズあい。カイを仲間へと招き入れる“はみ出し者集団”のヒューゴ役に竹内良太、スポウク役に前野智昭、ワタリ役に伊瀬茉莉也、ユキヲ役に千葉繁。カイをつけ狙うベテランの麻薬取締官・影山役には大塚芳忠。さらに、芹澤優、入野自由、甲斐田裕子と、人気、実力を兼ね備えた珠玉の声優陣が脇を固める。アニメファンならこの配役だけでどんなストーリーが待っているのかワクワクすることだろう。
近未来都市を駆け巡る疾走感あふれたバイクアクション、スピーディーな新感覚アニメである本作をこの機会にオススメしたい。
自動制御システムとタグ付けされた個人情報
テクノロジーが発展した100年後の東京で、孤独に生きていた主人公が、オートバイに乗った個性豊かな面々たちとの出会いをきっかけに新たな人生を切り開いていく本作。「近未来」「バイク」というキーワードのアニメに既視感を覚えるかもしれない。しかし本作は「AKIRA」じゃない、どちらかというと「PSYCHO-PASS サイコパス」だ。
この時代では、デジタル省が位置情報を”最適化”し、タクシーや物流カーゴは自動運転化されており、人は歩きもせず、ディスクに乗って歩道を移動する。さらには腕に付けた端末に個人情報・通貨などが集約され、移動できる範囲は人によって限られている。つまりは、ハイパー管理社会。
SNS登場初期では「行動範囲がわかってしまうから”タグ付け”しないで」と言っていたが、現在ではどうだ? すっかり番号や、QRコードで私たちの行動は、すすんで把握されてしまっている。本作の東京は現実と地続きにある未来なのだ。こういった社会ではシステムからはみ出した者がだけが、その違和感を感じることができる。
こういった管理社会に相反した象徴として描かれているのが、時代遅れのオートバイだ。
主人公カイを救う、はみ出し者集団・スマガレージは、表向き、骨董品となってしまったエンジン搭載の自動車、オートバイをメンテナンスをしているが、実はシステムの網目を掻い潜って、依頼品を違法にデリバリーする闇稼業を行なっている。
彼らがデリバリーするために乗車するのは「Honda CB1300」と「Yamaha YZF-R1」「Yamaha VMAX」。これら実在するモデルが轟音を上げながら疾走する。3Dモデリングにマンガの集中線のような2D描写を混ぜたポップでノワールなバイク・アクションは観るものを強く引きつける。
作中のバイクアクションは、オートバイの発売元であるヤマハ発動機株式会社、本田技研工業株式会社から、立体・画像データの提供と音収録に協力を受け、車体だけでなく実際のエンジン音まで空間オーディオで再現されている。
加えて、ヤマハは作中に登場するレースマシン「Y/AI(ワイエーアイ)」のデザインなどを行い、ビジュアル面、映像サウンドの監修にも協力した。100年後のバイクサウンドも是非、聞いてもらいたい。
バイクに乗るということ
バイクといえば、11月29日に公開された『ザ・バイクライダーズ』も本作と似ている。『ザ・バイクライダーズ』は、写真家ダニー・ライオンが1960年代シカゴに実在したバイカー集団の日常を描写した写真集にインスパイアされた映画。
ここでは、当時のハーレー・ダビッドソンにまたがったモーターサイクルクラブの創立から破滅までの軌跡が描かれている。バイカーの理想像を体現したようなオースティン・バトラー、クラブ創設者のトム・ハーディーが、自分の大切なものを守るべく、もがき傷つ様は、切なくて色気がある。旧車好きなら是非観てほしい作品だ。
この『ザ・バイクライダーズ』と「Tokyo Override」、時代背景、登場キャラクターは、まったく違うが、根源的なテーマは一緒だ。
奇しくもこの2作品で、同じセリフが登場する。
「自由にバイクに乗れたらそれでいい」
一見、不良のバイク乗りが、無軌道に生きる様をただカッコつけて吐き捨てているように見えるが、そうではない。
自分が束縛されることに対する拒絶、ありのまま自分であることの肯定に他ならない。この2作品は、アイデンティーをバイクに乗せて社会からの解放を試みているのである。
2作品で描かれたベトナム戦争前後のアメリカ、100年後の東京。ともに登場人物たちのあずかり知らない何かに脅かされて窮屈だ。
「Tokyo Override」には、こんなセリフもある。
「バイクは人を自由にする。でも自由の意味は誰も知らない」
「自分の居場所を求め彷徨う、全て整った場所が心地いいわけじゃない」
過去も未来も変わらない。いつだって若者は盗んだバイクで走り出す。本作における王道のストーリー展開は、実に爽快な気分にさせてくれる。特にラストシーン、カフェレーサースタイルのCB1300から、ロケットカウルが外れて生身で疾走するシーンは、主人公の剥き出しの心が走っているようで、胸が熱くなるしとても清々しい。
いつの時代も、すべてをコントロールしようとする者がいて、そこからはみ出した者が存在する。バイクに乗らないあなたも、道がないなら自分で作って、上書きしてやればいい。困難な状況だとしても、あなたは挑まなければならない。自分で呼吸し、楽しむんだ。例え見返りがなくとも、人生というゲームを続けよう。
「Tokyo Override」は、そんなことを魅せてくれるアニメだ。
文 / otocoto編集部
孤独なハッカーが出会ったのは、秘密裏に活動するデリバリー集団。完璧な理想の街・東京、その表の顔に潜む闇に包まれた真実を両者は共に暴いていく。
監督:深田祐輔 、ヴィーラパトラ・ジナナヴィン
出演:ファイルーズあい、竹内良太、前野智昭、伊瀬茉莉也、千葉繁、芹澤優、大塚芳忠、入野自由、甲斐田裕子
アニメーション制作:RiFF Studio
世界独占配信中