Feb 03, 2026 column

「あなたとひとつになりたい?」ホラーで描いたラブストーリー 映画『トゥギャザー』

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それでもしっかりホラー作品である

愛だの恋だの述べたが、作品冒頭から嫌な雰囲気がたっぷりだ。山々に張り巡らされた森林の木々の枝が、根っこが、肉体を這う血管のように見えてきて不穏な空気を劇場に充満させる。『トゥギャザー』はしっかりホラーの要素を兼ね備えている。

行方不明のカップル、怪奇を知らせる子ども、隔離された過疎地域、カルト宗教、怪しげな隣人、心霊現象、そしてチェーンソー……etc. そしてホラーでは死とともにエロスが描かれるのがお約束だ。2人の肉体が結合するとき、皮膚一枚下に潜り込み、相手の肉体を愛で、撫で回すように結合する。そのさまは情熱的で官能的だ。

ティムは30半ばでロックスターを夢見るダメ男、ミリーは少し神経質な面持ちの女教師。セックスレスのカップルはともに癖があって、どこか陰鬱。本作はパリピが殺人鬼に無慈悲に襲われる話ではないことが、この関係性からもわかるだろう。

M・ナイト・シャマラン、ジョン・カーペンター、スタンリー・キューブリックが大好きというシャンクス監督は、Jホラーからの影響も多分に受けており、初めて観た『リング』にハマり『呪怨』シリーズなど数々のJホラーを観漁ったそうだ。なかでも三池崇史監督の『オーディション』を絶賛し、本作のあるシーンでは、黒沢清監督の『回路』のオマージュを公言している。

となると、ミリーの瞳が大きく面長ロングヘアーといったビジュアルは、『キャリー』のシシー・スペイセク、『シャイニング』のシェリー・デュヴァルに由来するものではないのか? 肉体が引かれ合うあのシーンは、『エクソシスト』のスパイダーウォークと『リング』の山村貞子のミックスなのか? そんな考察がはかどる部分が本作には多々ある。ホラーは模倣が観客に許されているジャンルだ。そこかしこにちりばめられているホラー好きのエッセンスを探すのもまた楽しい。

ウィットに富んだラブソングの使い方

17歳からMVを制作しているシャンクス監督。本作『トゥギャザー』では音楽も非常に重要な役割を果たしている。予告映像に使われているザ・タートルズの「HAPPY TOGETHER」をはじめ、劇中にはゴールデン・スーツの「You and nobody else」「Another one」といった楽曲が使われ、情景と音楽が密接に絡み合う。

その最たるものは、スパイス・ガールズの「2 Become 1」だ。 使用許可も取れていないのに脚本段階から楽曲使用を決め込んでいた、シャンクス監督肝いりの曲だ。

「スパイス・ガールズは脚本の段階から決め込んでいました。脚本にも『ティムがこう言う、ミリーがこう言う、そしてスパイス・ガールズがこう言う』というように、登場人物のひとりとしてびっしり書き込んでいたんですが、その時点では権利は取得していなかったんです。映画は低予算だったので、音楽の権利金に割ける予算はまったくと言っていいほどなかった。でもどうしても使いたくて悩んでいたら、主演のデイヴ・フランコとアリソン・ブリーがそのためのお金を出してくれたんです。それでようやく権利取得に向けて動き出しました。楽曲を使用するシーンの撮影日の前夜に正式な使用許可が下りて心底ほっとしました。でももし許可が下りなかったとしても撮影は続行しようとしていたんです(笑)」

デビューアルバム「Spice」に収録されている、このクリスマスソングには2通りのバージョンがある。ゲイのファンが多い彼女たちは、彼らファンに配慮し、”boys and girls go good together”という歌詞を、シングルでは”love will bring us back together” と一部変更した。この後、歌詞は”Take it or leave it”と続く。

「Wannabe」でデビューし世界を席巻したイギリス出身のガールズ・グループ、スパイス・ガールズのデビューアルバムは、ミリーの一番好きなレコードとして本編のクライマックスに登場する。ティムとミリー、2人の決断は、一体いかなるものになるのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。