Jun 22, 2024 column

娘シャマラン処女作 映画『ザ・ウォッチャーズ』 監視されているのは彼らか、我々か?

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6月21日、映画『ザ・ウォッチャーズ』が公開された。監督を務めたのはイシャナ・ナイト・シャマラン。そう、『シックス・センス』(1999)で知られるM・ナイト・シャマランの娘である。そんな彼女の長編デビュー作に期待が高まるのは当然のことだろう。

ペットショップで働く28歳の孤独なアーティストのミナ(ダコタ・ファニング)は、鳥かごに入った鳥を指定の場所へ届けに行く途中で、地図にない不気味な森に迷い込む。するとスマホやラジオが突然壊れ、車も動かなくなり、森の中へ助けを求めに出るが、乗ってきた車が消えてしまう‥‥。

森の中に現れたガラス張りの部屋に避難したミナは、そこにいた60代女性のマデリン(オルウェン・フエレ)と20代女性のシアラ(ジョージナ・キャンベル)、19歳男性のダニエル(オリバー・フィネガン)と出会う。夜には、ガラス窓がマジックミラーとなり、彼らは毎晩訪れる”何か”に監視されているという‥‥。

果たして父の影響はどの程度、映画に反映されているのか。彼女の作品には、どのように独創的なビジョンが提示されているのか。

本作を通じて、イシャナという才能を見つめ、本コラムが、映画に込められたメッセージやエッセンスを解き明かす、助けになれば幸いだ。

イシャナ・ナイト・シャマランという才能をどう見るか

アイルランド出身のホラー作家、A・M・シャインの原作をもとに、謎めいた”監視者”の恐怖を描いた『ザ・ウォッチャーズ』。今作で長編映画デビューを果たした監督のイシャナ・ナイト・シャマランについて経歴を振り返りたい。

父であるM・ナイト・シャマランが監督を務めた『オールド』(2021)や『ノック 終末の訪問者』(2023)にてセカンド・ユニットの監督を務め、Apple TV+オリジナルドラマ「サーヴァント ターナー家の子守」(2019〜)では、シリーズ最年少の脚本/監督を務めたことが明かされている。

24年前、『シックス・センス』の圧倒的なインパクトと感動でその作家性を確立した父親のもとで経験を積み重ねた彼女が、父の作家性と比較されることは避けては通れない。

劇場に訪れる人々は、観たことのない意外な展開で、圧倒的なインパクトを残したシャマラン作品を娘にも期待することだろう。

あなたは、今作を通じて娘シャマランをどう見るか?

盛りだくさんの基本的なホラーエレメント

『ザ・ウォッチャーズ』に関して、イシャナは「ファンタジーとスリラーの要素を組み合わせた」と語るとともに、シャルロット・ゲンスブールとウィレム・デフォーが出演した鬼才ラース・フォン・トリアー監督の『アンチクライスト』(2009)の「自然と深くつながって描かれるダークな質感に刺激を受けた」とその影響を述べている。

その影響を見事に撮影したのがA24の『LAMB/ラム』(2021)を担当したイーライ・アレソン。スクリーンを観れば、なるほどと納得してくれる映像となっている。

そのほか、ギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2007)、アニヤ・テイラー=ジョイ主演ロバート・エガース監督による『ウィッチ』(2015)も参考にしたそうだが、これらの作品を知る人にとっては、今作『ザ・ウォッチャーズ』の質感が見えてくるだろう。

今作にはファンタジーとホラーのお約束的な要素、過去作へのオマージュが、これでもかとぶち込まれている。

先に挙げた序盤のあらすじだけでも、アルフレッド・ヒッチコックの『鳥』(1963)よろしく鳥の群れの恐怖は、容易に思い起こさせるし、ペットショップ店員が鳥かごを持って、牢屋のように映るアイルランドの針葉樹が茂った森に迷い込み、得体の知れない”何か”に監視される小屋に閉じ込められる流れは、とてもわかりやすいメタファーだ。

登場人物だってそうだ。迷い込み脱出を試みる主人公、どこか怪しげで知識豊富な老婆、きっとピンチを招く若い女性、大人しいのに、いきなりパニクって問題を起こしそうな若い男性。RPGでいう勇者、戦士、魔法使い、僧侶ぐらいのホラーのテンプレパーティだ。

そのほか、細かいことを挙げたらキリがないが、これだけ多くの要素をよくまとめたなと思うほど、本作はホラー食材の闇鍋状態だ。優秀なスタッフの手腕が遺憾なく発揮されているのだろう。