Feb 18, 2025 column

映画『ブルータリスト』アメリカの若者に大人気、壮大な“大ボラ”で描く創作者の受難

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第二次世界大戦の終戦直後、ナチスドイツによるホロコーストを生き延びた男たちがアメリカにやってきた。ハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トートは、仲間とともにいよいよ念願を果たしたのだ。あとは、引き離されてしまった妻と姪を呼び寄せるだけ――。

映画『ブルータリスト』は、開幕の瞬間から観客を事件現場に放り込む。上映時間215分の大作は、30年以上にわたる歴史の“現場”を次々に目撃させるのだ。そうするうちに、ラースロー・トートという男の半生が、その苦しみと真の狙いが見えてくる。

アカデミー賞大本命、若者たちが注目した歴史映画

第97回アカデミー賞で、作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞ほか全10部門にノミネート。第82回ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)・主演男優賞(ドラマ部門)・監督賞の3部門に輝き、第81回ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞(最優秀監督賞)に輝いた。

2024年度の賞レースで最前線をひた走る『ブルータリスト』の驚くべきところは、かくも壮大な歴史/人間ドラマに、少なくない観客が“事件の予感がする”と言わんばかりに飛びついたことだ。

アメリカでは12月20日に劇場公開を迎え、たった4スクリーンでの公開にもかかわらずオープニング興行収入約26万6,800ドルを記録。ニューヨークとロサンゼルスでは30回ほどの上映が完売したばかりか、観客の大半が35歳以下という若者だった。そのおよそ半分が映画SNS・Letterboxd(日本でいうFilmarkのようなもの)を通じて本作を知ったというから、観客の流入経路も興味深い。

ごく小規模から始まった北米興行は、ゴールデングローブ賞受賞やアカデミー賞ノミネートの話題性を受け、さらに口コミ効果も手伝って計1612館まで拡大。北米興行収入1211万ドル、全世界累計興行収入1832万ドルのヒットとなっている(2月5日現在)。

© 2024 Eric Charbonneau

大作フランチャイズ作品がハリウッドを席巻している今、なぜ『ブルータリスト』は、これほど観客の心をつかんだのか。そこには、36歳の俊英監督ブラディ・コーベットが描き出す大河ドラマに秘められたミステリーと、骨太だがシンプルな構築があった。ブルータリズムとは1950年代から見られるようになった建築様式で、打ちっぱなしのコンクリートやレンガをさらけだすことにより、装飾ではなく無骨な構造を見せる手法のこと。「ブルータル(brutal)」とは「野蛮さ」や「荒々しさ」あるいは「率直さ」を意味する言葉だが、この『ブルータリスト』という作品自体も「ブルータリズム」の映画なのだ。