Jul 27, 2019 column

新海誠監督作『天気の子』、前作メガヒットで新海ワールドは変わったのか?

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前作以上に楽しめるメジャー仕様に

新海作品は男女のすれ違いが描かれることが多かったが、本作の帆高と陽菜は序盤で出会い、陽菜の弟・凪も加え、陽菜のアパートで大切な時間をともに過ごす様子が生活感たっぷりに描かれる。『言の葉の庭』(13年)の主人公たちも同じ時間を共有するが、生活感はなかった。新海ファンにとっては新鮮さを感じさせるシークエンスだろう。

帆高が差し入れとして持ってきたポテトチップやチキンラーメンを具材にして、陽菜は手際よくポテチ入りチャーハン、細かく砕いた麺をトッピングしたサラダを作ってみせる。グルメな大人から見ればジャンクフードかもしれないが、親のいない生活を送る3人にとっては特別なごちそうとなる。相変わらず雨が降り続ける東京で、子どもたちだけで過ごすアパートでの生活はまるでユートピアのように輝いて映る。

だが、これまでの新海作品の主人公たちがそうだったように、大きな運命が2人を待ち受けている。帆高はその状況を受け入れることができない。子を持つ親である須賀は「落ち着け、冷静になれ」と帆高に繰り返す。冷静に現実を受け入れるということは、大人になるということでもある。帆高は現実をそのまま受け入れることを良しとせず、自分なりの決断をくだすことになる。

少年から大人への過渡期にある主人公の葛藤、心を通い合わせた大切な女性への想いなど、新海作品の重要なテーマが分かりやすく描かれ、『君の名は。』と同じくRADWIMPSの音楽がドラマをエモーショナルに盛り上げていく。作画のクオリティーはさらにアップしたようだ。帆高が追い込まれていくサスペンスフルな場面やカーチェイスシーン、ファン向けのサプライズ演出も用意されている。前作『君の名は。』以上に、誰も楽しめるメジャー仕様になっているといえるだろう。

その一方、劇場デビュー作『ほしのこえ』(02年)や短編オムニバス『秒速5センチメートル』(07年)の頃のような、それこそ“マイナーポエット”的な魅力、特定の人に向かって耳元で囁くような独特な作家性は影を潜めるようになったのは致し方ないことか。思いがけない運命に翻弄される陽菜と帆高と同じように、新海監督もまた日本人監督がまだ誰も到達していない高次元での創作を求められている。

新海監督は今後さらにメジャー性を極めていくのか、それともかつてのような手づくり感のある小規模な作品に戻ることもあるのか。近年大きく変わりつつある日本の気候と同じく、新海監督のこれからを予測することは容易ではない。

文/吉田孝文

公開情報
『天気の子』

「あの光の中に、行ってみたかった」――。高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。そんな中、雑踏ひしめく都会の片隅で、帆高は一人の少女に出会う。ある事情を抱え、弟と2人で明るくたくましく暮らす少女・陽菜。彼女には、不思議な能力があった。「ねぇ、今から晴れるよ」――。少しずつ雨が止み、美しく光り出す街並み。それは祈るだけで、空を晴れに出来る力だった――。
原作・脚本・監督:新海誠
声の出演:醍醐虎汰朗 森七菜  本田翼 / 吉柳咲良 平泉成 梶裕貴  倍賞千恵子 / 小栗旬
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
配給:東宝
公開中
©2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/