中東で傑作、力作が生まれる理由
その他にも、『迷子の警察音楽隊』(07年)は、エルサレムに招かれたエジプトの警察音楽隊が、空港から自力で目的地に向かう途中で迷子になるという、イスラエルとフランス、アメリカの合作。イスラエルとエジプトの複雑な関係をベースにしつつ、ユーモラスかつ異色の物語ながら、東京国際映画祭でグランプリを獲得したうえ、なんとブロードウェイでミュージカル化までされた。また、いま話題の正体不明のグラフィックアーティストを巡るドキュメンタリー『バンクシーを盗んだ男』(17年)には、パレスチナとイスラエルを分断する巨大な壁が登場。そこにバンクシーが描いたとされる『ロバと兵士』の絵に対する、パレスチナの住民の強い反発や、バンクシー作品のオークションを追っていく。製作国はイギリスとイタリアだが、パレスチナ自治区のシビアな現状も伝える作品になっていた。
時として映画は、乗り越える問題がシビアで過酷なほど、ドラマチックになる。その意味で、イスラエルと周辺のアラブ諸国の関係、パレスチナ問題は、必然的に映画の作り手たちの野心をくすぐるテーマになりやすいのだろう。この問題を訴えたい揺るぎない信念が、傑作、力作を生み出すのだ。そして、過酷な状況の中で愛おしい日常を送る人々の姿は、国境を超えて世界中の観客の心にアピールする。コメディとして楽しんでいた『テルアビブ・オン・ファイア』のような作品も、観終わった後にさまざまな感慨に浸らせてくれるわけで、そこに中東の映画の、心に深く刻まれる強烈なインパクトの理由があるようだ。
文/斉藤博昭
エルサレムに住むパレスチナ人青年のサラームは、 パレスチナの人気ドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の制作現場で言語指導として働いているが、撮影所に通うため、毎日面倒な検問所を通らなくてはならない。ある日、サラームは検問所のイスラエル軍司令官アッシに呼び止められ、とっさにドラマの脚本家だと嘘をついてしまう。アッシはドラマの熱烈なファンである妻に自慢するため、毎日サラームを呼び止め、脚本に強引にアイデアを出し始める。困りながらも、アッシのアイデアが採用されたことで、偶然にも脚本家に出世することになったサラーム。しかし、ドラマが終盤に近付くと、結末の脚本を巡ってアッシ(イスラエル)と制作陣(パレスチナ)の間で板挟みになったサラームは窮地に立たされる。はたして彼が最後に振り絞った“笑撃”のエンディングとは――?
監督:サメフ・ゾアビ
脚本:サメフ・ゾアビ、ダン・クレインマン
出演:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニフ・ビトン
配給:アット エンタテインメント
公開中
© Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Films From There – Artémis Productions C623
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/
ブルーレイ&DVDセット:4743円(税抜)
発売中
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2017 TESSALIT PRODUCTIONS–ROUGE INTERNATIONAL–EZEKIEL FILMS–SCOPE PICTURES–DOURI FILMS
DVD:3800円(税抜)
発売中
アップリンク
DVD:3800円(税抜)
発売中
アルバトロス
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