映画監督ジェームズ・ガンは「凡人」を愛する。うまく周囲との折り合いをつけられない人たちを、一芸には秀でているが欠陥だらけの人たちを、一芸さえなくとも懸命に日々を生きている人たちを。そして、そんな彼らが起こしうる「奇跡」の可能性を。
グロテスクな低予算ホラー映画からキャリアをスタートさせ、不謹慎なジョークと暴力表現を武器としてきたガンは、マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでブレイク。いまやDCスタジオの共同会長兼CEOに就任し、新DCユニバースを率いる立場となった。
ジャンル映画から大作路線へのシフトチェンジは、まさに映画監督のハリウッド・ドリーム。しかしながら、ガンはもとよりただ悪趣味なだけのフィルムメイカーではなかった。作品を支えるものは、物語を通して暗に語り続けてきた人間存在、あるいは生命への愛情。生きとし生けるものを尊び肯定する心が、唯一無二の普遍性を映画にもたらしてきたのだ。
映画『スーパーマン』は、新DCユニバースを本格的に開幕する長編映画第1弾で、ガンにとっても勝負の一本。アメコミ界でもっともよく知られる最強のスーパーヒーローに、ガンはどんな人間性を見出したのか?
物語は途中からはじまる
スーパーマン/クラーク・ケントは、故郷のクリプトン星が滅亡の危機に陥るなか、最後の希望として地球へ送られた。アメリカの小さな農場に不時着した彼は、心優しいケント夫妻の愛情を受けてすくすくと成長。愛する地球と人々を守るため、スーパーマンとして日々戦いながら、昼間は新聞社デイリー・プラネットの記者として生活している――。
これは今までに何度も映画化され、あらゆる作品で描かれてきたスーパーマンのオリジン・ストーリー(誕生譚)だ。しかしジェームズ・ガンは、このよく知られた物語を思いきって省略する。

劇中の世界は、3世紀前から「神々と怪物(ゴッズ・アンド・モンスターズ)」の時代――これは新DCユニバースの第1章に冠されたタイトルである――に突入している。スーパーマンは30年前に地球へ飛来し、3年前からスーパーヒーローとしての活動をはじめた。そして、3分前に初めて戦いに負けた。彼は「ボラビアのハンマー」という謎の強敵に敗れ、だだっ広い雪原に落ちてくる。 それは長きに渡る歴史の、ほんの一瞬だ。かくして新DCユニバースはさりげなく幕を開け、広大な世界のちっぽけな一点に観客を放り込む。