次元を超えて集結する個性豊かなスパイダーマンたち
本作を彩る別次元から来るスパイダーマンたちだが、原作コミックから選抜して登場したのは全部で4人。女スパイダーマンの「スパイダー・グウェン」(実写版にも登場経験アリ)、1933年を舞台にした私立探偵「スパイダーマン・ノワール」、未来から来た少女「ペニー・パーカー」と彼女が操るロボットの「SP//dr」、放射性の豚に噛まれた蜘蛛がヒーロー化した「スパイダー・ハム」。
どいつも見た目からクセの強いスパイダーマンたちだが、何より興味深いのは、絵柄がバラバラで統一されていない点だ。しかもどれも不思議なくらい違和感なく映像にマッチしているのはアニメーターたちの技術の賜物だろう。例えば、スパイダーマン・ノワールはフィルム・ノワール風の白黒で表現され、なぜか室内でもコートが風になびいている。スパイダー・ハムはポップなカートゥーン調でデザインされコミカルに飛び回る。
新たなるスパイダーマン=マイルス・モラレスの物語が始まる
本作で主人公を務めるのは、すでにピーター・パーカーがスパイダーマンとしてニューヨークで活躍する世界で生きる、アフリカ系アメリカ人の父とプエルトリコ人の母を持つ13歳の少年マイルス・モラレス。グラフィティ・アートが大好きで、憧れのちょいワル(?)叔父さんと落書きを楽しんでいたところ、(シリーズではお馴染みの展開)放射性のクモに噛まれたことからスパイダーマンの力に目覚めてしまう。突如目覚めた力をコントロール出来ず困惑するマイルスだったが、ある日、ニューヨークの地下でヴィランたちを束ねる犯罪王キングピンが巨大な装置で異次元の扉を開く実験をしているところに遭遇する。
スパイダーマンが阻止しようと戦う中、ピーターはマイルスの中に自分と同じ力が宿っていることに気付き、力の使い方を教える約束をするが、彼はキングピンに殺されてしまうのだった。自分を導いてくれるはずだった師を失い、ただただピーターの墓前で途方に暮れるマイルスの前に現れたのは、実験の影響で別の次元から飛ばされてきた中年のピーター・B・パーカーだった。というのが映画序盤の導入部分のストーリー。
本作はスパイダーマンならではのド派手なアクションが目白押しなのは当然ながら、物語の軸で語られるのはあくまで成長物語だ。マイルスの孤独感や、厳格な父親との関係性、学校生活がうまくいかないといった思春期特有の普遍的な悩みを抱えながら、スパイダーマンの根底にあり続けるテーマ「大いなる力には、大いなる責任が伴う」が重なり、何度も躓きながら立ち上がり、ピーターから受け継いだヒーローとしての矜持を胸に、真のスパイダーマンとして成長するマイルスの姿に胸が熱くなることは必至だろう。
そして、20年以上も戦いに身を捧げた結果、多くの物を失い心身ともにすっかり荒んでしまった別世界のピーターも、新米スパイディ・マイルスと凸凹コンビを組みながら、彼を通してかつての自分を思い出し、再びヒーローとしての自信を取り戻していく。本作は新旧2人のスパイダーマンがそれぞれ成長していく姿を描いているのだ。