Apr 23, 2025 column

止まれない物語、止まらない進化――Netflix映画『新幹線大爆破』が切り拓くリブートの可能性

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そして何より、派手なシーンのライド感と見ごたえ。新幹線がギリギリですれ違うシーンではスピード感、音響、飛び散る火花等々、VFXを駆使して思わずのけぞってしまうほどの迫力を生み出した。クラシックなアプローチも意識的に採り入れている本作だが、やはりこういった見せ場においては技術的なアップデートの効能が如実に感じられる。こちらもまた、前述した“本物感”=実際に新幹線がギリギリですれ違った場合にどうなるかを、観客が疑似体験できる感覚の醸成に大きく寄与しているポイントだ。

犯人の要求も「1000億円を国民から集めろ。方法は任せる」と今風なものになっているのが興味深い。一昔前だったら“無理ゲー”だが、電子送金が当たり前になったいま、金額こそ難易度が高いものの方法としてはできなくはない。起業家ユーチューバーの等々力 (要潤) が突貫でサイトを設立してクラウドファンディングを呼び掛けたり、乗客が各SNSを通じて訴えたり、さらには自ら前出のサイトに送金する光景も描かれる。『ミッション:インポッシブル』等のアクションシリーズにも見られる特徴だが、公開当時の最新のテクノロジーを物語に組み込んでこそ時代性が補強され、観客がスッと受け入れられるもの。他にも、私人逮捕系ユーチューバーが事態をややこしくしたり、乗客の一人である国会議員の加賀美 (尾野真千子) が「ママ活」のスキャンダルで失墜していたりと、観客一人ひとりの描写にも現代性を盛り込んでいる。

また、後半の衝撃的な展開にもオーバーテクノロジーの代償や肥大化する承認欲求の罪深さ、過去の栄光にすがる上世代と現在にも未来にも希望を持てない次世代の閉塞感のギャップ等々が根底に流れており、随所に「いま『新幹線大爆破』をやる意味」が感じ取れるのではないか。Netflix らしいリッチな画作り、そして世界のユーザーがアクセスしやすい環境も含めて、これからの日本映画におけるIP活用の新局面となる機運がみなぎる一作となった。

文 / SYO

作品情報
Netflix映画『新幹線大爆破』

はやぶさ60号は今日も、新青森から東京へ向けて定刻どおり出発した。高市はいつもと変わらぬ想いで車掌としてお客さまを迎える。そんな中、1本の緊迫した電話が入る。その内容は、はやぶさ60号に爆弾を仕掛けたというもの。新幹線の時速が100kmを下回れば、即座に爆発する‥‥。高市は、極限の状況の中、乗客を守り、爆破を回避すべく奔走することになる。犯人が爆弾の解除料として要求して来たのは、1,000億円。爆発だけでなく、さまざまな窮地と混乱に直面することになる乗務員と乗客たち。鉄道人たち、政府と警察、さらに国民も巻き込み、ギリギリの攻防戦が繰り広げられていく。極限の状況下でぶつかり合う思惑と正義、職業人としての矜持と人間としての本能。はやぶさ60号は、そして日本は、この危機を乗り越えることができるのか。

監督:樋口真嗣

原作:東映映画「新幹線大爆破」(監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助/佐藤純彌、1975年作品)

出演:草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工

Netflixにて世界独占配信中

作品ページ netflix.com/新幹線大爆破