まずは本作の概要をおさらいしよう。監督は原作映画を小学校3年生の際に劇場で観たというリアタイ世代の樋口真嗣 (『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』ほか) 。主演は草彅剛が務め、のんや斎藤工らが重要キャラクターを演じ、JR東日本が特別協力した。今回の舞台は新青森駅から東京駅に向かう新幹線「はやぶさ60号」。車掌の高市 (草彅剛) や運転士の松本 (のん) は乗客を無事に目的地に送り届けるべく、今日も業務に励んでいた。そんな最中、謎の人物から1本の電話が入る。それは、「はやぶさ60号に爆弾を仕掛けた。時速が100kmを下回れば即座に爆発する」というもの。ノンストップの巨大な密室と化した車内。高市&松本は新幹線総合指令所・総括指令長の笠置 (斎藤工) と連絡を取り合いながら事態の収拾に奔走する――。


本作は爆破テロを題材にしたパニック・サスペンスだが、キモとなるのはやはり「止まれない」「降りられない」点だろう。原作の『新幹線大爆破』がキアヌ・リーヴスの出世作『スピード』に影響を与えたのは有名な話だが、このわかりやすく、画的にも派手な設定が作品全体の緊迫感を担保し、視聴者を画面に釘付けにする (ちなみに『スピード』の影響を受けている「名探偵コナン」の劇場版第1作『時計じかけの摩天楼』でも列車に爆弾が仕掛けられ、速度を落とすと爆発するネタが登場) 。しかもこの設定、時間が経つごとにハラハラ感が増す仕組みになっており、「他の車両と衝突してしまう危険性」が出てきたり、「終着駅に着くまでに解決しないと大事故になる」ため、タイムリミット・サスペンスの要素も。また、出られない状態が続くことで「乗客がパニックに陥り、暴走する」ようになり、カオスな展開にもなっていく。同時に車外では事態の解決と犯人探しに鉄道会社社員・警察・政治家たちが取り組み、新幹線の内と外で2軸のリアルタイム・サスペンスが並走することとなる。

この特長が、Netflix版『新幹線大爆破』ではさらに加速。なんと、JR東日本が臨時列車として実際に運行を許可。上野から新青森間で計7往復も運転しながら撮影したという。細かな所作や言い回しなども徹底的に監修し、スリルの上昇には欠かせない“本物感”を付加した。あまりに荒唐無稽な設定や描写が過ぎると、観る側が臨場感を抱けなくなり、冷めてしまうもの。その点本作は、新幹線に乗ったことのある人ならば「実際にこんな事態が起こったら?」のIF (もしも) をリアルに想像しながら物語を追いかけていくことが可能だ。かつ、他の車両との衝突事故を避けるため・乗客を少しでも救うために「はやぶさ60号が走行状態で出来ること」を考え抜き、様々な作戦を駆使してゆく展開は『シン・ゴジラ』的でもあり、専門用語がスピーディに飛び交うセリフ回しもあって場面が移り変わっても緊迫感が継続される。
