Aug 07, 2025 column

ついにインドへ進出!!『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』は相互理解とアイデンティティー回復の物語である

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8月8日公開を迎える『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』はインドが舞台。クレヨンしんちゃん劇場映画32作目となる本作は、翌月9月26日にインドでも劇場公開される。

現在「クレヨンしんちゃん」は、世界で50の国と地域で放送され人気を博している。インドにおいては、2006年にキッズチャンネル「HungamaTV」でTVアニメシリーズの放送が始まったのをきっかけに、毎日週7日、朝から晩までオンエアされ、それが18年間続いている。日本同様、老若男女みんなが知る国民的人気のアニメコンテンツなのだ。そして昨年公開された『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』がインドでも劇場公開され、大ヒットを記録。満を持してこの度、映画製作本数世界1位の映画大国のインドで最新作が翌月に公開されることになった。

いつもながらの笑いあり感動ありの内容に加え、インド映画の要素をうまく落とし込んだ本作。「クレヨンしんちゃん」と「インド映画」の親和性を紐解くとともに、今回のクレヨンしんちゃん劇場映画のテーマを解説する。

メキシコ、オーストラリア、そしてインドへ

ブリブリ王国、ヘンダーランド、オトナ帝国、ラクガキングダム、花の天カス学園‥‥。映画版クレヨンしんちゃんでは、これまで架空のワンダーランドが数多く登場してきた。

その一方で、実在の外国を舞台にした作品もある。『映画 クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 〜サボテン大襲撃〜』(2015)ではメキシコ、『映画 クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』(2019)ではオーストラリア。そして最新作『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』(2025)は、インドが舞台だ。

カスカベ市とインドのハガシミール州ムシバイが姉妹都市となったことを記念して開催された、「カスカベキッズ エンタメフェスティバル」。ダンス大会で見事優勝を果たしたしんのすけたちカスカベ防衛隊は、ご褒美としてインドへの招待券を手にする。灼熱の太陽が降り注ぐ活気あふれるインドの地で、彼らは夢のステージに立つことに。

しかし、その旅路は予期せぬ事態によって一変してしまう。立ち寄った現地の雑貨店で見つけた、不思議な鼻の形をしたリュックサック。そこに封印されていたのは、邪悪な力が宿る“紙”だった。その力に導かれるように、普段は物静かでマイペースなボーちゃんが、突如として“暴君(ボーくん)”へと変貌を遂げてしまう。

寡黙なボーちゃんのイメージを覆す、俊敏で圧倒的なパワー。これまでの友情や絆が通用しない、暴走するボーちゃんの姿に、しんのすけ、風間くん、マサオくん、ネネちゃんは戸惑いを隠せない。はたしてカスカベ防衛隊は、友情の力でボーちゃんを救い出し、再び一つになることができるのだろうか?というのが、おおまかなあらすじだ。

テレビ朝日の定例社長会見で、藤本幸子取締役は「子どもの人口が4億人という巨大市場を持つインド向けに映画を作った」とコメントしている。9月下旬にはインドでも公開予定で、ヒンディー語、タミル語、テルグ語での吹き替え版が用意されているという。日本を代表するIPの海外戦略として、インドは確かに理にかなった選択だろう。しかし物語論として「クレしん」を考えたとき、インドという舞台はそれ以上の意味を持つ。