May 02, 2024 column

映画作家・藤井道人の“抜け感”が、万人を感動へと導く『青春18×2 君へと続く道』

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“剛”に加え、“柔”の演出が光る

前述したピュアさにしても、リアルタイムな生々しさとしての無意識的なそれではなく、昔の手紙を開封して読み返すような意識的なものであり、とはいえ装置として利用もしていない。この絶妙な位置取りが、登場人物/観客の両獲りを成しえているようにも見受けられ、藤井作品史上おそらくもっとも世代的なレンジの広い結果につながったような気がしている。

深く心を打つ作品は、観る者が相応の覚悟を要するものでもある。『ヤクザと家族 The Family』や前述の『ヴィレッジ』などはまさにそうした作品で、心を持っていかれる力作の中で藤井監督の映像センスが目を喜ばせる効果を発揮していた。対して『青春18×2 君へと続く道』では、あえて描きすぎず、どこまでも優しさや慈愛に満ちた目線や映像に注力することで逆説的にジミーとアミの運命の切なさを掻き立て、観る者の感情を増幅させる。そして作り手の「絶望だけでは終わらせない」という意志を素直に出すことで、我々観客が安心して見届けることが叶うのだ。日本/台湾、さらには世界に響くスケールの物語と、作り手の覚醒が見事に融合している。

これまでの“剛”に加え、“柔”をも手に入れた藤井道人監督。すでにアナウンスされているだけでも3本以上の新作が控えており、表現者としての「第2章」がどこまでの高みに届くのか、楽しみに追いかけてゆきたい。

文 / SYO

作品情報
映画『青春18×2 君へと続く道』

高校生・ジミーのバイト先に現れた日本から来た4つ年上のバックパッカー・アミ。ひと夏を同じ店で働き過ごすことになった2人だったが、次第にジミーはアミに淡い恋心を抱いていく。夜道をバイクで2人乗りしたり、映画を観に行ったり、2人の距離は縮まっていったが、突然、アミが日本に帰ることに。気持ちの整理がつかないジミーに、アミは“ひとつの約束”を提案する。時が経ち、あるきっかけで久々に実家を訪れたジミーは、日本に戻ったアミから18年前に届いたハガキを見つける。初恋の記憶がよみがえったジミーは、過去と向き合い、今を見つめるため、初めての日本での一人旅へ。アミとの思い出の曲を聞きながら列車に乗り、ジミーが向かうのは彼女の故郷。ジミーはアミとの再会を果たせるのか。

監督・脚本:藤井道人

原作:「青春18×2 日本慢車流浪記」

出演:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2024「青春 18×2」Film Partners

2024年5月3日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

公式サイト seishun18x2