May 02, 2024 column

映画作家・藤井道人の“抜け感”が、万人を感動へと導く『青春18×2 君へと続く道』

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脚本時点で感じた、新たなる“ピュアさ”

『青春18×2 君へと続く道』についてのお話を伺ったのは、脚本制作段階のことだった。記憶をたどると恐らく2022年末から2023年の正月あたりで、フィードバックのメモが手元に残っている(藤井さんは脚本を送ってくださり、意見を募るスタイルを取っているのだ)。劇中でジミーが語る「SLAM DUNK」のセリフについて、いちファンとしての重箱の隅をつつくようなリクエストを行ったのだが(その結果は本編で確認してほしい)、テキスト時点でもどこか懐かしく、エモーショナルで、それでいて台湾映画の“土”と“風”を感じさせる味わいが漂っていた。これはあくまで僕の感覚だが、『宇宙でいちばんあかるい屋根』『余命10年』に連なる系譜の作品であると同時に、よりピュアな部分に進もうとしている印象を受けたことを覚えている。

残念ながら撮影には同行できなかったものの、台湾での様子はちょいちょい伺っていて、有意義な時間になっているのだなと嬉しく思っていた。その後、編集段階で映像を見せてもらい、またフィードバックを行ったのだが――上記の感覚と共に、藤井監督の中で“痛み”の扱いが変わったような、さらなる進化を感じた。

台湾の夜市や夜空に浮かんでゆくランタン、バイクの2人乗りシーン、日本の雪景色や古き良き町並み等々の映像美は言うまでもなく素晴らしく、18歳と36歳を完璧に演じ分けたシュー・グァンハンさんの芝居に驚かされ、清原さんの“忘れられない人”ぶりにさらなる魅力を感じたりと、心を動かされたシーンは数多くある(ちなみに、劇中に登場する温かみある絵の数々は、藤井さんのお姉さん・よしだるみ氏によるものだ)。藤井作品の特徴として、ただ画が綺麗とかただ芝居がいいというものはなく、全ては人間を描くために機能している。お互いに「好き」という言葉を言い出せないジミーとアミの切ない心情が、美しい映像に乗るからこそ観る者の胸に響くのだ。そういった意味では風景描写こそ心情描写であり、そのポテンシャルを最大限生かせるスクリーンで観たら凄まじい感動が押し寄せてくることだろう。すでにアジア各国でヒットを記録しているのも納得で、台湾と日本の各地を辿る“旅映画”の側面はあれど、地域性や言語、文化を超えた「ただ、人を想う」という普遍的ながらどうしようもない人間の“魂”のようなものがクリティカルに届いてくる。