エンタメ業界と障害のある表現者
本作で初主演となるスカイラー・ダベンポートは、「Re:ゼロから始める異世界生活」ミネルヴァ役、「古見さんは、コミュ症です。」長名なじみ役、「ポケットモンスター」ビオラ役、「ファイナルファンタジーVII リメイク」サラ役、といった日本の人気アニメやゲーム作品の英語版声優としても活躍している。
「過去に私が英語に吹き替えた元の日本の声優が、この映画で私の声を日本語に吹き替えたとしたら、とても面白いと思います(笑)」
そんな彼女は、主人公ソフィとの共通点があるとしたら「視力を失ってもなお、情熱を捨てなかった」ところだという。俳優になることが幼いときから夢だった。20歳で視力を喪失しても、その夢に挑戦することは並大抵の努力ではない。
「障害者には大きな困難が伴います。ほとんどの俳優が考えもしないような課題にたくさん直面します。オーディションでセリフを録音したテープの提出を要求される場合、24~48時間以内の締め切りまでに読み上げてくれる人が見つからず、アプリでテキストを読み上げることが多いことです。一番大変だったのは、映画会社のあるロサンゼルスなど知らない街では運転ができなかったことです。
ですが、俳優は私の天職だと思っています。特別なメッセージを伝える映画であろうと、単純に観客を笑わせる映画であろうと、世界をより良いものにする作品にこれからも貢献していきたいと思っています」
自分のために多くの困難に立ち向かう姿は、本作の主人公と重なる。ここで、今回のように障害のある役柄は、健常者ではなく、実際に障害のある俳優が演じるべきなのか、彼女に聞いてみた。
「15年前は、障害者役のほとんどは健常者によって演じられていました。当時のやり方や、その映画に携わった人を責めたり、怒ったりすることはありません。彼らの多くは素晴らしい仕事をしたと思っています。
最近では障害者のキャスティングも多く見られるようになりました。世間と同じように、エンターテイメント業界でも視覚障害の認知度は高まっています。私自身、視覚障害者としての経験が、この映画に活かされたことに非常にありがたく感じています。
この映画を通じて、世界中の視覚障がい者から『視覚障害者が同じ視覚障害の役を演じているのを初めて見た』とたくさんのメッセージやメールを受け取りました。こうした役柄で障害のある俳優が起用されるために、あらゆる努力をすべきだと思います。
同時に映画制作には数多くの困難があり、安全上の理由からも、それが時に難しい場合があることを理解しています」
日本では、階段しかないスタジオで車椅子では入れない、筆談で対応する余裕がない、などを理由に、エキストラも断られるそうだ。日本では”心身ともに健康な人”でないと、芸能事務所への応募不可の場合もあるらしい。だから挑戦すらできず、夢を諦めなければならない。
そんな状況下で、NHK Eテレで放送されている障害者情報バラエティー「バリバラ」では、2021年夏にプロの俳優になりたい障害のある人たちを発掘・育成するプロジェクトを立ち上げた。本作を通じ障害のある表現者に興味を持った方は、ぜひ番組を観てほしい。ただ寄付を施し介助する感動ポルノではない、自立した彼らによる表現のアップデートがエンターテイメントには必要だ。
取材・文/ 小倉靖史
ペットシッターのアルバイトで、人里離れた豪邸を訪れた盲目の少女ソフィ。視覚障がいを逆手に取り、金目のものを盗み出そうとしていた。ところが日没後、武装強盗が屋敷内に侵入する。目的は、壁に隠された巨大な金庫。命の危険を感じたソフィは、視覚障がい者サポートアプリ 《シーフォーミー》を起動し、元軍人でFPSゲームの熟練プレーヤーのケリーに助けを求める。圧 倒的に不利な状況下、侵入者の攻撃から身をかわしていくも、バッテリー残量は容赦なく減っていき…。ケリーの“目”を失ったとき、ソフィが生き残る方法はあるのか!?
監督:ランドール・オキタ
出演:スカイラー・ダベンポート、ジェシカ・パーカー・ケネディ
配給:クロックワークス
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