視覚障害者とホーム インベンション
『ファニーゲーム』(97)や『パニックルーム』(02)といった、強盗など悪者が家宅侵入してくるジャンルの映画を「ホーム インベージョン・スリラー」という。
これと視覚障害者をかけ合わせた作品は、近年では『ドント・ブリーズ』(16)と『ドント・ブリーズ2』(21)が人気を博した。
“この家から生きて脱出したければ、息をするな‥‥”とのキャッチコピーで、全米2週連続No.1を獲得。大ヒットホラーとして5年後にあたる昨年に続編が公開された。
この作品は、家宅侵入された側が盲目で、主人公である強盗たちを追い詰める。登場する、目は見えないが、どんな音も聞き逃さない超人的な聴覚と圧倒的な戦闘能力を持つ老人が、このジャンルに他とは違う緊張感とぞっとする恐ろしさを加えた。
また、Netflix映画の『サイトレス』(20)では、女性バイオリニストが暴漢に襲われ失明するところから物語が始まる。
暴行された傷の治療後、犯人のストーカー行為が懸念されるため、新居を引っ越したヒロインのエレン。派遣された男性介護士に頼らなければ、周りで何が起きているのか分からない。日常生活で感じるちょっとした違和感に、彼女は疑心暗鬼になり心身を壊していく。
本作は、ヒロインが健常者から障害者になる過程を疑似体験させ、障害のある生活となった目の見えないヒロインが見ている映像で構成されている。つまり、映し出される映像が、現実なのか妄想なのかは、観客には分からないことになる。客観的な他者として世界を見ているのではなく、当事者として何が何だか分からない状況に引き込まれるのが恐ろしい。
盲目の殺人鬼が追ってくる『ドント・ブリーズ』、主人公が認識している映像を映した『サイトレス』。同じ視覚障害をテーマにした作品だが、それぞれ描かれ方が違う。
「ホーム インベージョン・スリラー」の古典的作品といわれているのが『暗くなるまで待って』(67)。オードリー・ヘプバーンが目の不自由な主婦を熱演し、アカデミー主演女優賞にノミネートされた傑作サスペンスだ。監督は「007」シリーズなどで知られるテレンス・ヤングが務めた。
オードリー演じる目の不自由なスージーの夫が、ひょんなことから預かった人形にはヘロインが隠されていた。人形の行方を追う犯罪グループの男たちが、スージーの自宅を突き止め、留守中に忍び込むが人形は見つからない。スージーが盲目であることに気づいた男たちは、ひと芝居打って人形のありかを聞き出そうとする。
同名戯曲を映画化したもので、小さなアパートメントの1室で繰り広げられる密室劇。限定されたシチュエーションで行われる会話劇は、すべてを知っている観客をずっとヒヤヒヤさせる。
それをヒロインが優れた洞察力と駆け引きで窮地をくぐり抜けるのだが、そのオードリー・ヘップバーンの演技が素晴らしい。また視覚障害のある主人公と悪役が対峙する場合、必ずある暗闇対決のマッチによる演出もいい。まさに”優秀な脚本と演者がいれば面白い”といわれるお手本のような映画だ。
個人的には、夫婦がお互い愛し合っているのだけど、健常者の夫が決して甘やかさず、自分のことは、自分でやるように至って普通にしているのが好きだ。視覚障害者が主役の場合、ヒューマンドラマ仕立ての感動作になりがちだが「ホーム インベージョン・スリラー」の場合、そこに陥らないのがいい。