もう一本、韓国で大ヒットした『哭声/コクソン』も紹介したい。ナ・ホンジン監督からオファーを受けた國村隼が演技派俳優としての潜在能力をいかんなく発揮した今作だが、一度観ただけでは容易には理解できない難解さがあった。『コクソン』はひとつの物語が、小さな集落で起きた猟奇殺人事件、異民族に対する偏見と恐怖、科学では解き明かせない超常現象、神の視点……といった幾つものレイヤー(層)が積み重なった形で構成されており、どのレイヤーからこの物語を読み解くかで印象がまったく異なる作品となっている。
この『コクソン』と同じスタイルとなっているのは、『桐島、部活やめるってよ』(12年)などのヒット作を放った吉田大八監督だ。吉田監督が長年企画を温めてきた三島由紀夫原作の『美しい星』(17年)も幾つものレイヤーによって構成された世界となっている。リリー・フランキー扮するお天気キャスターが地球滅亡の危機に立ち上がるコメディタッチのSF作品だが、テレビ業界人、日本人、地球人、宇宙人とレイヤーの階層を上げていくことで異なる世界観が現われることになる。『コクソン』も『美しい星』もすでにDVD化されているので、じっくり見直してほしい。
2018年の期待の若手監督として注目したいのは、オリジナルコメディ『ピンカートンに会いにいく』の公開が1月20日(土)に控えている坂下雄一郎監督。1986年生まれの坂下監督は大阪芸術大学映像学科を卒業後、さらに東京藝術大学大学院映像研究科で学び、2017年1月に『東京ウィンドオーケストラ』で商業デビューを飾ったばかり。11月にはブラックコメディ『エキストランド』も公開しており、デビュー1年ながら、オリジナル脚本作を3本劇場公開することになる。『ピンカートン~』はブレイク直前で解散した女性アイドルグループの再結成もので、内田慈、松本若菜、山田真歩ら実力派女優たちの毒の効いた台詞の応酬が楽しめる。東京藝大大学院出身監督として、『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)の真利子哲也、『PARKS パークス』の瀬田なつき、『君の膵臓をたべたい』の月川翔らも近年大いに活躍しており、作家性とエンタメ性を兼ねそろえた彼らは邦画界に新風を吹き込んでくれそうだ。
2018年のもうひとつの注目作は、俳優の斎藤工が“齊藤工”名義で長編監督デビューを果たす『blank13』。今作は高橋一生、松岡茉優、佐藤二朗、リリー・フランキーら人気&実力派キャストが集まり、齊藤監督の演出は彼らの魅力を存分に引き出してみせる。家から失踪した父親(リリー・フランキー)と残された兄弟(斎藤工、高橋一生)とが13年ぶりに再会するシリアスドラマながら、後半にはインディペンデント映画ならではの意外な展開が待っている。上海国際映画祭で最優秀監督賞(アジア新人賞部門)を受賞するなど海外でも話題となった『blank13』。既視感のあるテレビドラマや映画に食傷ぎみの人はお試しあれ。
文/長野辰次
『哭声/コクソン』
Blu-ray:4800円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
発売・販売元:キングレコード
©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
『夜は短し歩けよ乙女』
【DVD 通常版:4800円(税抜) Blu-ray 通常版:5800円(税抜)
Blu-ray 特装版:8800円(税抜)
発売中
発売元:東宝/フジテレビ 販売元:東宝
© 森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
『PARKS パークス』
Blu-ray:4800円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
発売元:日活 販売元:ポニーキャニオン
©2017本田プロモーションBAUS
『blank13』
2018年2月3日(土)シネマート新宿にて公開、2月24日(土)全国公開
配給:クロックワークス
©2017「blank13」製作委員会
『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦/角川文庫
『新感染 ファイナル・エクスプレス』チャン・ソンミ/竹書房文庫