蜷川幸雄やつかこうへいの演出作に多く出演してきたベテランの西岡、歌舞伎にも出演している福士、劇団☆新感線の看板女優・高田、中年アイドルヲタクを描いた主演映画『堕ちる』も注目される中村ほか、『相棒』などで活躍する名バイプレイヤー六角精児など芝居の濃いメンツが集まって、一般的に生き方のお手本にはされないであろう人物たちを、愛らしく演じている。
彼らと出会い向き合い、揉まれていく主人公コージを演じた安田章大は、ジャニーズのスターであるにもかかわらず、じつに控えめにコージを演じていた。そこが良かった。なぜなら、コージは都会に慣れないうえ、元来、あがり症で、不器用な性分の人物だからだ。
だが、コージは、あがり症さえなかったら、いい歌を歌うという設定なので、歌のときだけ、ややボルテージが上がる。そのボリュームの上げ下げの調節に、安田の俳優としての可能性が見える。それは、じつに繊細で滑らかで芝居がかっていない。ふだん、おとなしい子が、歌のときだけ豹変します!という劇的な変化ではなく、歌いながら徐々に内面に変化が起きていくようなのだ。さらにそれは、歌の力に人間が影響を受けていくことと、歌っている人間の資質が歌をより深くさせていくことと、そのどちらもあるように感じさせた。歌と人間が混ざっていく。それは、人間の精神の筋肉が、様々な感情を受けることで鍛えられて形を変えていくようでもある。これは、何気ない会話の奥に潜む人間の複雑な感情を描く、岩松了の演出を受けた体験(14年「ジュリエット通り」)も生きているのではないだろうか。
ちなみに、安田は「ジュリエット通り」では娼婦、「カゴツルベ」(09年)では花魁を好きになる役で、今回はストリッパー。社会の片隅で苦労する人間を見捨てられないという役が安田には似合う。
そんな安田演じるコージを、愛し続けるテレサを演じたシャーロット・ケイト・フォックスの情の演技もじつに滋味深い。クライマックス、コージがアイドルグループの前座で歌う状況は、彼の関ジャニ∞での活動を知る者(観客の大部分であろう)にとっては、なんとも奇妙な気持ちだろう。そんなコージを見つめるテレサの反応は、ほんのちょっとした手足の動きだけで、愛情が立ち上る。朝ドラ『マッサン』で多くの視聴者の心を掴んだ彼女の力を、ダイレクトに感じることができた貴重な舞台だった。
たくさんの人々の出会いを経た後のコージの『俺節』は、長時間、積み重ねて来た甲斐があるものとして響く。
文 / 木俣冬
撮影 / 阿久津知宏
舞台『俺節』
大阪公演
6月24日(土)〜30日(金)
オリックス劇場
公式サイト:http://www.orebushi.com/
文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
初めて手がけた新書『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中!
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062884273
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