『フェアウェル』『WAVES』ほか今後の注目作
ただし、『ミッドサマー』の後に、日本で相次いで公開されるA24の2作品は、過激系ではなく、骨太な賞狙い系。今年のアカデミー賞は『パラサイト』が席巻したものの、ノミネーションでは多様性の少なさが指摘され、数年前、批判が起こった“白すぎるオスカー”の再来という声も上がった。その意味で、A24のこの2作が、アカデミー賞にもっと絡むべきだった。それだけの佳作なのである。
そのひとつが4月10日公開の『フェアウェル』。中国系アメリカ人のルル・ワン監督が、自身の体験をヒントにした作品で、余命わずかと宣告された中国の祖母と、ニューヨークに暮らす孫娘の関係が描かれる。メインの舞台は中国の長春というのも、アメリカ映画としては異例。メインキャストの一人には日本人もいて、アジア的センスが充満しつつ、国籍に関係なく家族の絆で感情移入させる作りは、まさに多様性を意識するA24らしい。主演は『オーシャンズ8』(18年)や『クレイジー・リッチ!』(18年)で、ハリウッドのアジア系スターのトップに君臨するオークワフィナと、最強のキャスティング。彼女はゴールデングローブ賞では主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞している。
もう一本は、『フェアウェル』と同じく4月10日公開の『WAVES/ウェイブス』。こちらは高校のレスリング部のスター選手が、肩の負傷をきっかけに人生の歯車が狂い始める切実なストーリー。主人公の妹のドラマも描かれるが、映像や音楽のセンスが骨太なテーマと見事にシンクロした野心作。この『ウェイブス』のトレイ・エドワード・シュルツ監督も、前作『イット・カムズ・アット・ナイト』に続いてのA24との仕事であり、アリ・アスター監督、『ウィッチ』『ライトハウス(原題)』のロバート・エガース監督と同じく、A24への信頼感がよくわかる。
『ミッドサマー』の後、この2作を観ることで、A24の“両輪”を実感できるだろうし、いずれにしても“質の高さ”には納得するはずである。さらに2020年に日本で公開予定のA24作品には、白人至上主義の主人公の変化を描く社会派ドラマ『SKIN/スキン』、ジョナ・ヒルの監督作『ミッド90ズ』、そしてNetflixで配信の『アンカット・ダイヤモンド』など、じつにソソるラインナップが控えている。A24というキーワードで観る作品を選ぶことは、映画ファンの“常識”になりつつあるのだ。
文/斉藤博昭
家族を不慮の事故で失ったダニー(フローレンス・ピュー)は、大学で民俗学を研究する恋人や友人と5人で、スウェーデンの奥地で開かれる“90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖…それは想像を絶する悪夢の始まりだった。
監督・脚本:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィルヘルム・ブロングレン、アーチー・マデクウィ、エローラ・トルキア、ビョルン・アンドレセン
配給:ファントム・フィルム
公開中
R15作品
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公式サイト:https://www.phantom-film.com/midsommar
Blu-ray:4700円(税抜) DVD:3800円(税抜)
発売中
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元:TCエンタテインメント
©2018 Hereditary Film Productions,LLC
配給:ショウゲート
2020年4月10日(金)公開
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配給:ファントム・フィルム
2020年4月10日(金)公開
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