傑作から珍品まで、A24作品の特徴
『ミッドサマー』を、アメリカで配給したのは“A24”。このスタジオの名前を聞けば、映画ファンには心ときめく人も多いはずだ。それくらいここ数年、躍進がめざましい。作品によっては製作と配給、または配給のみと、スタンスは異なるが、『へレディタリー』『ミッドサマー』のほかにも、関わった作品を並べるだけでも、その活躍は実感できる。
たとえばアカデミー賞で受賞、ノミネートの作品だけでもこれだけある。(※が製作も手がけた作品。ほかは配給作品)
2015年
『エクス・マキナ』 1部門受賞(視覚効果賞)、1部門ノミネート
『ルーム』 1部門受賞(主演女優賞)、3部門ノミネート
『AMY エイミー』 1部門受賞(長編ドキュメンタリー賞)
2016年
『ムーンライト』※ 3部門受賞(作品賞・助演男優賞・脚色賞)、5部門ノミネート
『20センチュリー・ウーマン』 1部門ノミネート
2017年
『レディ・バード』※ 5部門ノミネート
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』 1部門ノミネート
2018年
『魂のゆくえ』 1部門ノミネート
2019年
『ライトハウス(原題)』※ 1部門ノミネート
毎年のように賞レースに絡む作品を送り出している点では、サーチライト・ピクチャーズ、ブラッド・ピットのプランBエンタテインメントあたりと肩を並べていると言っていい。
2012年にニューヨークで設立されたA24は、翌2013年公開の、ハーモニー・コリン監督の『スプリング・ブレイカーズ』、ソフィア・コッポラ監督の『ブリングリング』で、早くも存在感を示すことに成功した。映画製作では西海岸が圧倒的にメインのアメリカで、東海岸のニューヨークで、メジャースタジオでは難しいプロジェクトを実現させている。
ハリウッドと一定の距離を置くA24のスタンスは、賞レース狙いの作品だけでなく、アリ・アスター監督のような気鋭のクリエイターたちによる、エッジの効きすぎた映画を好んでいるのも大きな特徴。このあたりは、サーチライトやプランBとも一線を画す。その結果、観たことのない野心的作品や、過激なテーマ、マニア心もくすぐる珍品などが送り出されることになった。
たとえばダニエル・ラドクリフが死体役で登場し続ける『スイス・アーミー・マン』(16年)や、ロックバンドとネオナチが闘う『グリーンルーム』(16年)などは、前例のない過激さが際立った作品。そうなるとジャンルは、ホラーやスリラーも多くなり、魔女への疑心暗鬼を描いた『ウィッチ』(15年)や、未知の病原体が諸悪の根源の『イット・カムズ・アット・ナイト』(17年)、ホラーではないが幽霊が主人公の『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(17年)、都市伝説系の『アンダー・ザ・シルバーレイク』(19年)など、いろいろな意味で“ヤバい”作品が目立つ。アリ・アスターの2作は、この系列。『ウィッチ』の監督の新作『ライトハウス(原題)』も、主演二人(ロバート・パティンソンとウィレム・デフォー)の強烈な熱演合戦が、まぎれもない怪作へと導いた好例だ。